特別対談

大和哲也選手にお話をお聞きしました。

藤平信一 心身統一合氣道会 会長

東京工業大学 生命理工学部 卒業
慶應義塾大学 非常勤講師・特選塾員
幼少から藤平光一(合氣道十段)より指導を受け、心身統一合氣道を身に付ける。心身統一合氣道の継承者として、国内外で心身統一合氣道を指導・普及している。

大和哲也選手

キックボクシング世界チャンピオン


2015年11月に心身統一合氣道会に入会。2017年4月よりK-1参戦。格闘技の現役選手である大和哲也選手が週2回稽古を続ける理由についてお聞きします。今回は大和選手を指導する山本岳見師範も対談に同席しました。

心身統一合氣道との出会い

藤平信一会長(以下、藤平):心身統一合氣道との出会いを教えて頂けますか。

大和哲也選手(以下、大和):元々、藤平信一会長・広岡達朗さん・王貞治さんとの鼎談本『動じない。』を持っていて、一度読んだのですが不思議とその時は内容が頭に入って来ませんでした。
 2015年にWBCムエタイのワンマッチで計量オーバー、これは格闘家にとってやってはいけない過ちでした。その後の防衛戦でも負けてしまい「何でこうなったのか?」と考え込んでいました。ちょうどその頃、妻が家の片付けをしていて、一緒に本の整理をしていたところ『動じない。』の表紙が目に飛び込んで来ました。そのときの自分に必要な本だと直感し、もう一度手にとってみたんです。
 本を読み進め、「心が身体を動かす」という言葉にハッとしました。計量オーバーしてしまったのも、自分の心に驕りがありました。調子が良かったのに防衛戦で負けてしまったのも、「どうやって倒すか」という欲が心にありました。目の前の結果は、自分の心の状態の表れであることに氣が付いたのです。

藤平:同じ本を読んでも「何を言っているか良く分からない」というアスリートも少なくありません。本から得たものは大きかったのだと思いますが、大和選手は元々、「心」のように形のないものに関心があったのではないでしょうか。

大和:そうかもしれません。僕は「感覚」を大切にしています。例えば、試合中にはゾーンのような状態があって、相手を倒す前に倒せる攻撃が分かることがあります。集中していると「何か」がふと降りてきて、その通りに左フックとか右ストレートを出したら相手が倒れるということが良くあります。そういう形のない「何か」を感じていたので、「その答えがここにあった!」と思いました。それから、藤平信一会長の本、藤平光一宗主の本と、立て続けに読みました。調べてみたら名古屋にも道場があることが分かり、すぐに太心館道場の門を叩きました。そこで、いまお世話になっている山本岳見師範に出会いました。

パンチ、キックを通して人に感動を届ける

藤平:多くの人は「格闘家は相手を倒すために試合をしている」と考えています。大和選手の記者会見の映像を見ると、どうやら目的が違うようですね。

大和:僕は「FIGHT FOR PEACE」と言っています。試合の際は相手に敬意を持ってのぞんでいます。相手のことが嫌いで倒しているわけではありませんし、よく間違われるのですが、僕は元ヤンキーでもありません(笑)。

藤平:周囲の勝手なイメージですね(笑)。

大和:元々、僕は運動音痴で、野球でもサッカーでも常に補欠でした。放課後も土日も練習しているのに一度も試合に出られない。上手くないから当然なのですが不満でした。中学3年生の時、テレビでK-1の試合を見て、その華やかな世界に魅了されました。また、個人競技であれば、頑張れば自分も試合に出られるのではないかと考えたのです。

藤平:今の大和選手からは想像出来ません。

大和:歌手は歌を通じて、俳優は演技を通じて人を魅了するのと同じで、格闘家はパンチ、キックを通して人に感動を届けていると思っています。野球選手だって、憎しみを持ってボールを投げたり打ったりしませんよね。野球でいうところのホームランは、格闘技であればノックアウトです。チャンスがあれば当然ノックアウトも狙いますが、それでも僕は「やっつける」のではなく「競い合う」つもりで試合にのぞんでいます。

藤平:なるほど、「競う」ことと「争う」ことは本質が異なりますね。競うときは相手への敬意がありますが、争うときはそれがありません。もし、競い合うことが試合の目的ならば、大和選手は相手にもベストコンディッションでいて欲しいわけですね。

大和:そういうことです。勝負ですから結果として「勝ち」「負け」は生じますし、格闘家である以上は勝つことが求められます。それでも「勝ちさえすれば良い」わけではなく、お互いにベストを尽くすことでお客さんに伝わるのだと信じています。

藤平:試合やトレーニングで、心身統一合氣道の稽古はどの様に活かされていますか。

大和:年齢的に「これ以上、フィジカルが強くなるかな?」というところまで来て思うことは、心のことを学ぶことでさらに強くなれることです。例えば、試合中の攻防では、多くの選手は攻められると受身になります。最近、僕が意識しているのは、「攻められている」のではなく「攻めさせている」こと。すると、氣を引かないのですぐに前に出られます。
 あと、「静止」や「間合い」も意識していますし、統一体で動くことでパンチやキックがどうなるかは常に研究しています。僕が「合氣ック」と呼んでいる蹴りも、そこには精神性が含まれています。すみません、勝手に名付けてしまって…(笑)。

藤平:大和選手ならば、全く問題ありません(笑)。

大和:今は本当に心が静まった状態でリングに上がれています。2017年4月にK-1で対戦した選手はとても強い相手でしたが、僕の間合いに圧力を感じて、攻撃が雑になったところをノックアウトした感じでした。僕たちは一対一で圧力をかけたり引いたりするので、統一体でいるかどうかで相手が感じる圧力は相当に違うと思います。

格闘技で「静動一致」を体現する

藤平:強い選手にはどんな特徴がありますか。

大和:本当に強い選手には静かな感じがあります。シーンとしていて、ゾワッとする感覚です。血氣が盛んな選手はいつ来るか分かっているので、「おいでおいで」で対応するだけで良いのですが、落ち着いている選手にはそうはいきません。
 僕のジムの会長は「格闘技はジャンケンだ」と言います。相手がグーで来たらこちらはパーを出せば良いだけです。相手に圧力をかけながら「相手を先に動かして対応する」という戦い方です。「相手をこう倒してやろう」というのは、「チョキで勝ってやろう」というのと同じで、相手がグーなのに全力でチョキを出しても勝てません。

藤平:とても分かりやすい例えです。相手の身体の動きをみてから反応しては間に合いません。大和選手は「氣」をみていて、そのために心が静まっている必要があるわけですね。

大和:正にそういうことです。

藤平:それともう一つ。「心がガサガサした状態で生じる動作」と「心が静まった状態から生じる動作」では発揮される力が違いますね。『動じない。』の鼎談の際、王貞治さんは「バッターにとって打ちたいという氣持ちが大事。しかし、それが前面に出てしまうと心の状態がガサガサしてしまい、そこから生じるスイングは弱いのです」と言われていました。本当に良い時はスイング直前に一瞬の「静」があるのだそうです。

大和:確かに、相手を倒す前には一瞬の「静」があります。その状態から出るパンチにもキックにも威力があります。そういう時は「コンマ何秒の世界」で身体が自然に動いています。

藤平:心身統一合氣道では、それを「静動一致」と教えています。技の稽古であれば、自分の心がガサガサしていると、それが相手に伝わって無意識の抵抗を生み、勢いもなくなってしまいます。動作を起こす前に一瞬の「静」があることが不可欠です。王貞治さんはそれを野球で、大和選手は格闘技で体現されているわけですね。
 山本岳見師範にお尋ねしますが、大和選手はどのような生徒さんですか。

山本岳見師範(以下、山本):それはもう可愛いです!自分はサーカスの猛獣使いみたいなもので、「百獣の王であるライオン」をいかに「借りてきた猫」にするか(笑)。それは冗談として、最初に出会った時から彼はスーパースターだと感じました。とても純粋で、こういう方なら絶対に氣のことを分かってくれると思いました。学んだことは必ず記録を取り、すぐにジムで実践・検証します。ものすごく素直で熱心な生徒さんです。太心館道場では他の生徒さんに混ざって稽古し、誰に対しても同じように丁寧に接します。格闘技を通じて、本氣で人の役に立とうと考えています。強いだけの選手はたくさんいても、人間的にこれほど素晴らしい選手はなかなかいないと思います。

大和:有り難うございます。いつも本当に多くのことを学んでいます。

山本:大和選手を指導させて頂くことで、自分自身の学びになっています。これほど真剣に学んでくれるのだから、自分はさらに真剣にお伝えしないといけない。先生と生徒という立場の違いはあれども、切磋琢磨している感じです。

藤平:最後に、会員のなかには「自分には運動のセンスがない」と悩んでいるお子さんもいます。大和選手からメッセージを頂けますか。

大和:運動神経が総てではありません。「好きこそものの上手なれ」といいますが、競技のことは勿論、先生やコーチ、先輩・後輩、仲間など「人」を好きになることで上達するのだと思います。最初に山本岳見師範に呼吸動作で投げられて天井を向いたとき、にっこりとする師範に後光が差しているように見えました。それは天井の蛍光灯だったのですが(笑)。そのとき「この人に学びたい」と思いました。僕は「人は人との出会いで変わる。出会いで成長する」と信じています。だからこそ「縁」というものを大事にしていますし、ジムの会長との縁、心身統一合氣道との縁に心から感謝しています。

藤平:運動だけではなく、勉強にも他のことにも通じる話ですね。そういう思いがあるからこそ、大和選手は道場で他の会員と一緒に稽古しているのですね。

大和:ジムでは常に上の立場なので、だからこそ初心に戻って白帯で稽古するのが心地好いです。学ぶ氣持ちを忘れることなく、日々の刺激になっています。いつか袴をはきたいので昇級審査にもチャレンジしています。道場では「最強の5級」と言われていますが、4級審査の表を見て氣が遠くなっています(笑)。

藤平:次は「最強の4級」ですね(笑)。本日は素晴らしいお話を有り難うございます。大和選手のご活躍をこれからも応援しています。

『心身統一合氣道会 会報』(第22号/2018年1月発行)に掲載

僕は「人は人との出会いで変わる。出会いで成長する」と信じています。

特別対談一覧

  • 2021年05月07日(金)

    大和哲也選手 特別対談

    2015年11月に心身統一合氣道会に入会。2017年4月よりK-1参戦。格闘技の現役選手である大和哲也選手が週 …

  • 2021年04月30日(金)

    三宅義和様 特別対談

    昨年7月に昇段審査会で初段に合格された三宅義和様にお話をお聞きしました。 英会話教室に求めるもの 藤平信一会長 …

  • 2021年01月31日(日)

    堀威夫様 特別対談(その2)

    大手芸能プロダクションのホリプロの創業者である堀威夫様は、ホリプロ創立60周年を迎えた2020年6月にホリプロ …

  • 2020年11月29日(日)

    横山 仁一様 特別対談

    舞台演出家であり、1992年に早稲田大学で結成された「劇団東京オレンジ」を主宰している横山仁一さんにお話をお聞 …

  • 2020年09月29日(火)

    菅原 哲朗先生 特別対談

    東京都立大学合氣道部の初代主将で、スポーツ法を専門とする弁護士の菅原哲朗先生にお話を伺いました。 藤平光一先生 …

その他の特別対談一覧

無料体験・見学のご予約は、お近くの道場・教室まで
検索はこちら

当会では「合気道」の表記について、漢字の「気」を「氣」と書いています。
これは“「氣」とは八方に無限に広がって出るものである”という考えにもとづいています。


top