
宮原禎様にお話しをお聞きしました。

藤平信一 会長
東京工業大学 生命理工学部 卒業
慶應義塾大学 非常勤講師・特選塾員
幼少から藤平光一(合氣道十段)より指導を受け、心身統一合氣道を身に付ける。心身統一合氣道の継承者として、国内外で心身統一合氣道を指導・普及している。

宮原禎 様
株式会社ACCEL Stars 代表取締役CEO
世界最高精度の睡眠測定技術を搭載したウェアラブルデバイスとデータ基盤を開発し、睡眠データと様々な医療データを掛け合わせた新たな医療サービス実現に向けたチャレンジをしているベンチャー企業、株式会社ACCELStars代表取締役CEOの宮原禎さんにお話をお聞きしました。
宮原さんは2023年から心身統一合氣道を稽古なさっています。
「日々が豊かになると人生が豊かになる」
藤平信一会長(以下、藤平):宮原さんの会社には、順天堂大学大学院博士課程の学生が進めている氣圧法の研究で貴重な機器をご提供いただきました。誠にありがとうございます。
宮原禎様(以下、宮原):とんでもありません。
藤平:宮原さんが事業において「睡眠」に着目されたのはなぜですか。
宮原:私は「日々が豊かになると人生が豊かになる」と考えています。前日に寝ていないと、次の日は幸せではないですよね。日々が豊かにならない。睡眠をテーマにすることで、人生を豊かに生きる社会実現に貢献できるかなと思って決めました。
藤平:ウェアラブルデバイスは病院と同じくらいの精度の高い機器だそうですね。ひと昔前の睡眠時に測定する機械はもっと大きいイメージで、想像していたよりもずっと小型で驚きました。この小さな機器でどのようなことが分かるのでしょうか。
宮原:簡単に言えば睡眠の検査で、「睡眠」状態なのか「覚醒」状態なのかを調べることで睡眠の質・量・リズムが分かります。「不眠症」「概日リズム睡眠障害」といった睡眠障害は睡眠の質・量・リズムを崩すことで発症すると言われています。しっかり寝られているかを調べることで、病気が潜んでいる可能性が分かるのです。
睡眠測定に使用するウェアラブルデバイス
藤平:良く寝られているかの物差しには「リズム」もあるのですね。
宮原:そうです。人間は地球上に生きているので、基本的には太陽の支配を受けています。朝、陽を浴びることで人間の生命機能をスタートさせています。目から光が入ると脳に感じる部位があって、身体が目覚め、血圧が上がるなど様々な生命機能が変わっていくのです。自然のリズムがあるのです。
藤平:都会では夜でも煌々と明かりがついていますから、セミが一晩中鳴いていることがあります。人間もリズムは大きく狂っていて、睡眠にも影響を与えているわけですね。
宮原さんの会社のホームページには、睡眠が心の健康に与える影響、例えば、精神疾患の発症や発達障害への影響についての可能性に触れています。
宮原:精神疾患を発症する手前や発症中に、睡眠障害を併発することが非常に多いのです。うつ病の場合、9割以上の方が発症する手前に不眠が発生しています。心の状態を確認するにはコミュニケーションを取ったり、ヒアリングしたりして主観的に捉える方法に頼ることが多いですが、うつ病の方に状態を尋ねても正確な答えが返ってくるとは限りません。そのとき、睡眠を測定することによって、「危険な状態かもしれない」と客観的に捉えることができます。
藤平:客観的な検査による「心の健康診断」ですね。
宮原:はい。もう少し遺伝的な要素が強いと言われている「双極性障害」では、躁状態・鬱状態という二極を持っていて、それぞれの極によって睡眠相が違うのです。「躁」から「鬱」、「鬱」から「躁」へとフェーズが変わる時にも睡眠のパターンが変わるので、その人の睡眠の状態を調べることで分かることがあります。双極性障害は基本的には慢性疾患で、上手に付き合っていくことが大事です。患者さんに「あなたの今の心の状態というのはこうなっていますよ」と知らせてあげれば、自身で対応がしやすくなります。私たちの出自である東京大学や、順天堂大学大学院医学研究科 公衆衛生学講座の谷川武先生(※会報誌第40号の特別対談に掲載)とコラボレーションしながら、デジタルバイオマーカーとして使用する可能性を模索し、研究を進めています。
藤平:不調を予防する観点ですね。ひどい状態に陥らないように一歩手前で手を打てれば、どれだけ多くの方が救われるかと思います。なるほど、こういう取り組みが普及して、日常のことになると社会が変わります。
谷川先生のお話では、健康な人でも「しっかり寝ている」と思っている人が実はよく眠れていないことがあるとお聞きしたことがあります。
宮原:反対のこともあって、例えば、心の病を抱えている人は、しっかり眠れているのに、不安感が強くて「よく眠れない」と訴える場合もあります。臨床の先生のお話を聞くと、そういう患者さんには、「あなたは眠れていますよ」と言ってあげるだけで安心して寝られるようになるそうです。だから、客観的にちゃんと測ってみることが大切なのです。
「ポジティブにいること」
藤平:話題が変わりますが、宮原さんご自身のことをお尋ねします。宮原さんは慶應義塾大学のご出身で、商学部の佐藤和教授のゼミの第一期生なのですね。佐藤先生は私が師範を務める慶應義塾體育會合氣道部の部長でもいらっしゃいます。
宮原:ゼミの三田会(OB会)の会長も20年くらいずっとさせていただいています。私は佐藤先生と谷川先生のご紹介で心身統一合氣道に出会ったので、ご縁が繋がっていて面白いですね。
私は大学を卒業した後、新卒でリクルートに入社し、その後、数社で経営を経験しながら、上場会社の経営者から教わりながら修行しました。孫正義氏のソフトバンクアカデミアの1期生として入り、孫さんから多くのことを学びました。
藤平:ベンチャー企業を立ち上げるには、たいへんなエネルギーが必要だと思います。稽古で宮原さんと接していると、本当に氣が出ていて、エネルギーの集合体のように感じます。それは生来のものですか、それとも後から培われたものですか。
宮原:どうなのでしょうか。小さい頃からリーダーをすることは多く、中学校では生徒会長、サッカー部のキャプテンを務めていました。その頃から人の力を結集して物事を達成することに関心がありました。それでも今、心身統一合氣道の稽古を通じて「氣が出ている」ことが大事だとあらためて実感しています。
藤平:物事の達成だけでなく、「氣が出ている」ときは出会いがあります。偶然に見えても、実はそうではない。氣が引っ込んでいると出会っていることにすら氣がつきませんね。
宮原:本当にそうですね。ある日、午後から始まる投資委員会の前に、会場近くでランチを取っていたら、何と投資会社の責任者の方が目の前に座っていて、名刺をお渡ししてご挨拶しました。投資委員会では「睡眠が本当に投資対象になりえるのか」という疑問が出たそうですが、その方が「あれ?聞いているよ」ということで、さっそく出資のOKが出ました。こういう偶然がよくあります。
藤平:氣が出ていなければ、そもそも責任者の存在に氣がつかなかったでしょうし、自ら挨拶に行くこともできなかったですね。それを「偶然」として捉えるかどうかでしょうね。
宮原:「なぜ、こんなところであの人に会うのだろう?」というのは実に不思議です。強く願えば願うほど、出会う感覚があります。私の場合、そのコツは「ポジティブにいること」だと思っています。どれだけ大変な状況でも、ポジティブな状態になってから念を起こすと、必要なタイミングで解決に繋がる出会いがあります。
藤平:ラジオの電波に例えれば、電波は確かにそこにあっても、形はなく目に見えません。こちらが受信機を持っていて、きちんと周波数が合っていればきちんとキャッチできます。自分の心と身体が整っているから掴めるのでしょう。
私が藤平光一先生から最も大事だと教わっていたのが、「常に氣が出ている状態でいる」ことです。始めのうちは簡単に聞いてしまっていたのですが、「常に」の部分がくせ者で、どれだけ厳しい状況でも氣が出ている状態を堅持することは並大抵のことではありません。
宮原:ベンチャー企業は外から見るとキラキラしている様に見えるかもしれませんが、内情は「社員の定着率」とか「資金調達」など心配事が日々いっぱいあるのです。ネガティブなことが起こっても、長期的な成功を見据えて、その方向に向かって進んでいくと必ず支援者が出て来ます。解決が不可能に見えることも、思わぬところでご縁が生まれて、何とか解決に至ることもあります。実は、この一年間で経営的に非常に厳しい局面もあったのですが、道場で稽古をすると「今週も来られた!」と氣が出ました(笑)。
藤平:そうだったのですね。藤平光一先生は「氣が出ている」ことを戦地の体験で会得したそうです。戦地では氣がつくべきことに氣がつかないと命取りになります。氣が出ているからこそ、迫ってくる危険を察知し回避できたことが何度もあったそうです。「氣が出ている」ときは、天地を相手にして、その声を聞ける状態にあると言っていました。自分のことしか見えなくなっていたり、考え事で頭がいっぱいになっていたりするときは氣が引っ込んでいて、まったく聞こえない状態になっている。氣が出ている状態を堅持することが最も重要と理解しました。
宮原:名経営者には信心深い人が多くて、皆さん、整えることを大事にしているようです。神社に参拝したり、座禅を組んだり、心身を整える場所を持っている人が多い。私にとっては、心身統一合氣道の稽古がまさにそうです。
藤平:最後に、日頃の稽古でどのようなことを感じているか教えていただけますか。
宮原:私は会社経営として「すでにあるものを伸ばす」のではなく「何もないところから生み出す」ことを得意としています。私の会社のような技術を基礎にした会社では、軌道に乗るのは20~30人くらいの社員が必要で、この規模ならば社長の目が隅々まで行き届きます。一方で、「自分が言うことが全て」みたいになると衰退の始まりです。ベンチャー企業の社長には自分の言うことを聞くように力づくで進める人も多いので…。だからこそ、道場で学ぶ「相手の立場に立つ」こと、「相手の氣を尊んで導く」ことを大事にしています。会社が目指す方向と社員の進む方向が一致すれば、たくさんの指示は必要ありません。
藤平:今後の夢や抱負についてもお話しいただけますか?
宮原:直近では、睡眠事業をしっかり立ち上げることです。睡眠を通じて世の中を良くしていく。マインドフルネスの会社にも投資していますので、そちらで昼の脳の安らぎを実現し、睡眠の事業で夜の脳の安らぎを実現できたら嬉しいです。
そして、心身統一合氣道の稽古をしっかりして、益々、氣を出して生きていきたいです。
藤平:本日は貴重なお話をありがとうございます。
『心身統一合氣道会 会報』(50号/2025年1月発行)に掲載

心身統一合氣道の稽古を通じて「氣が出ている」ことが大事だとあらためて実感しています。
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当会では「合気道」の表記について、漢字の「気」を「氣」と書いています。
これは“「氣」とは八方に無限に広がって出るものである”という考えにもとづいています。