特別対談

小山悠子先生にお話をお聞きしました。

藤平信一 会長

東京工業大学 生命理工学部 卒業
慶應義塾大学 非常勤講師・特選塾員
幼少から藤平光一(合氣道十段)より指導を受け、心身統一合氣道を身に付ける。心身統一合氣道の継承者として、国内外で心身統一合氣道を指導・普及している。

小山悠子 先生

医療法人社団明悠会
サンデンタルクリニック理事長


長年にわたって藤平光一先生(心身統一合氣道 創始者)の歯の健康をサポートされた歯科医師、医学博士の小山悠子先生のお話しをお聞きしました。

藤平光一先生とのご縁

藤平信一会長(以下、藤平):小山悠子先生と藤平光一先生とのご縁は、小山先生の師匠である歯科医師の福岡明先生(会報誌10号「特別対談」、第29号「インタビュー」掲載)ですね。福岡先生は先日、97歳で天寿を全うされました。

小山悠子先生(以下、小山):お元氣に100歳を超えると思っていたので本当に残念でした。
 福岡先生は50代で原因不明の肺炎にかかり、大学病院を転々として、あらゆる治療を試して治らなかったのですが、氣圧法と氣の呼吸法ですっかり良くなったことでびっくりされ、早速これを日常診療に取り入れ、研究テーマとしても取り組まれました。元々歯科診療に東洋医学を導入した統合医療を行っていたことから、ごく自然な成り行きだったのですね。

藤平:昨年の「第40回日本歯科東洋医学会学術大会」(2022年10月開催)では、特別講演として、福岡先生と共に私も講演させて頂きました。

小山:福岡先生は藤平信一会長とご一緒に講演できたことをとても喜んでおられました。

藤平:福岡先生には多方面でお世話になりました。心からの感謝と共に、ご冥福をお祈りしています。さて、小山先生には長く藤平光一先生の歯の治療でお世話になりました。

小山:福岡先生から藤平光一先生の治療を任せて頂いて20年くらいでしょうか。私は24歳で歯医者になったのですが、30歳で右手首がひどい腱鞘炎になり痛くて虫歯の治療をするのに注射が出来なくて困っていました。その頃に藤平光一先生から正しい姿勢や小指の使い方を教えて頂き、それ以来、うそのように痛みがすっかり消えてしまったのです。当時はなぜか分かりませんでしたが、最近、藤平信一会長のお話をお聞きして、ようやく理解できました。

藤平:福岡先生は「氣」を大事にしておられましたね。クリニック全体がプラスの氣で充満していることを大事にされたそうですね。

小山:福岡先生は開業当初、患者さんのために夜中まで診療していました。戦後の日本橋の崩れかけた古いビルの2階に、たった八坪の場所で開業したそうですが、そこに高級外車で乗り付ける患者さんが多く通うので、なぜあのぼろビルに高級車が?と「日本橋の七不思議」とまで言われたそうです。
 福岡先生は、ほんとうに人なつっこい先生で、根っから人が好きなので、エレベーターでも電車でも隣り合わせた人とスッと仲良くなって、皆、患者さんになってしまうのです。元々、楽しい氣を持っている方でしたね。

藤平:福岡先生と出会ったのはいつ頃ですか?

小山:福岡先生が統合医療の研究に本腰を入れ始めた頃、新宿に分院をオープンする話も持ち上がって、歯科医師、兼、研究助手が必要だったのでしょう。私はシングルマザーになったばかりで、女手一つで生きていかなければならない時期でしたので、今思えば、ちょうどよい出会いだったのですね。当時は女性の歯科医に勤め先は一切なく、大学に残るしか選択肢がありませんでした。歯学部の同級生にも女性は3~5%しかいないくらい。だから、福岡先生が私を雇用したことは、その時代の歯科医院としては異例中の異例だったと思います。

藤平:福岡先生はお話し上手でしたね。

小山:福岡先生は、三遊亭歌福という名前も持っていらして講演はまるでショータイム。いかに人に聞かせるか、楽しませるか。藤平信一会長も福岡先生に負けず劣らず話術と物まねの上手なエンターテイナーですよ。8歳の頃から知っていますが、あの悪戯っ子がこんなに成長するとは(笑)。

予防が最も大事

藤平:都合の悪い話が出る前に……(笑)、今度は小山先生のプロフェッションについてお尋ねします。
 一般的には、歯が痛くなったり、不具合が生じたりしてから歯医者さんに行くことが多いと思います。小山先生は、虫歯や歯周病になる前に予防する治療を大事にされていますね。

小山:歯医者は虫歯を治すのが仕事かもしれませんが、まずは虫歯にしないことですし、私は、自分が一度治療した患者さんは、絶対に悪くなって欲しくないのです。健康な状態が何十年も持続しているのが勲章です。そのためには予防が最も大事です。

藤平:歯を悪くすることで生じるリスクを知らない方が多いですね。

小山:口の中の細菌による全身への影響は本当に怖いのです。例えば、重度の歯周病は血糖値の上昇を招き糖尿病を悪化させ、低体重児出産は7.5倍にもなります。心疾患や脳血管疾患のリスクも跳ね上がり、口腔がん、膵臓がん、腎臓がんになるケースもあります。そういった知識があっても、症状がなければ自分が健康だと思ってしまう。歯肉に炎症が起きて腫れても、腫れがひいたら治ったと勘違いしてしまう。実際は、放置したらどんどん悪くなっているのです。どれだけ説明しても、実感を持てない方が多いのが実情です。

藤平:衛生的なことに加えて、歯を守ることも大事ですね。私は歯ぎしりの習慣がないのでマウスピースとは無関係だと信じていましたが、寝ているときに噛みしめていたようで、小山先生のお勧めで就寝時にマウスピースをしています。

小山:歯ぎしりも噛みしめも「動物としての人間」の本能だと言われていて、それでストレスを解消して健康を保っていると言われています。だから、一概に悪いものとはいえませんが、歯にひびが入り割ってしまったら大変です。アスリートは歯を悪くすると力が出ないと言われています。特に、力士のように激しくぶつかり合う場合は歯が抜けても入れ歯やインプラントの治療はできないので、歯のケアを特に大事にする必要があります。

藤平:小山先生のクリニックでは、そういった予防的な治療に加えて、患者さんとのコミュニケーションを大事にされているそうですね。

小山:クリニックによっては1時間に3~4人治療するケースもあると聞きますが、うちでは1時間にお一人です。患者さんが発する氣をよくみています。例えば、患者さんのご体調が悪そうなとき、元気がなさそうなときには、むりやり歯を抜いたりせず、大きな治療はしません。歯医者としては治療をしなければお金は頂けないのですが、どうしたら患者さんの回復力が発揮するかで判断しています。歯の治療を過度に不安に思う患者さんには、一緒に呼吸法をしたり、お話をしたりしながら信頼関係を築いて、安心されるまで待ってから治療をすることもあります。

藤平:日頃の歯の手入れが悪く、歯肉の状態がひどい場合は、治療の前にまずは歯磨きを徹底するそうですね。

小山:それは歯周病の治療のファーストステップだからです。それと、歯肉が悪い状態で治療すると出血が多いので、歯につめ物やかぶせものをしても血が混入して治療の精度が落ちますし、再び虫歯になって再治療の原因になります。だから歯磨きの指導を毎回と言ってよいほど行います。歯の健康は、毎日の積み重ねなので、やって頂くしかないのです。こうしたことを理解して下さるレベルの患者さんには、こちらも一生懸命氣が入った治療ができます。

氣を入れて行うことが大事

藤平:歯磨きのコツはありますか。

小山:氣を入れて行うことです(笑)。ごはんを食べたらお茶わんを洗うでしょう?洗わないで同じお茶わんにもりつけたら、腐って気持ちわるいでしょう?歯だって、同じ。シンクの生ごみが腐って匂うのと全く同じ状況です。
 同じ歯磨きをするのでも、初心者は鏡を使わずに適当にしたり、他のことに氣を取られて「ながら」でしたりすると、歯ブラシの毛先が正しく当たらず、汚れはほとんどおちません。歯ブラシが少し当たって歯肉から血が出るということは、歯周病菌が増殖して歯周炎を引きおこし、歯槽骨も吸収しつつあるということです。歯ブラシの他に歯間ブラシやフロスも必須です。ご自身の健康のために、どうか氣を入れて歯の手入れをして頂きたいです。

藤平:歯ブラシにも氣が通っているわけですね。

小山:そうです。藤平光一先生は素晴らしかったです。初期の頃こそ歯ブラシの指導をさせて頂きましたが、一度、それが正しいことだと分かると確実に実行されました。いつも良く手入れなさっていました。日頃、氣の重要性を説く方だからこそ、歯磨きにも氣が入るのでしょうし、失礼ながら「本物」だと感じていました。

藤平:私たち指導者にはドキッとする話です……。

小山:氣が入るといえば、施術側も同じことで、同じ治療でも適当に行うのではなく、「必ず良くなる!」と氣を入れて行うのでは治りが違います。そして、患者さんも氣を入れて歯の手入れをする。双方の氣が入ることで良くなっていくのだと思います。勿論、治療のスキルも大事であり、常に勉強し続けているので、自信を持って治療にあたり、その「氣」が伝わって患者さんからの信頼を得られるのだと思います。

藤平:本日は小山先生のクリニックで対談していますが、受付の方に笑顔で迎えて頂きました。多くの人にとって歯医者さんは「できれば行きたくないところ」ですから、プラスの氣で迎えて頂くのは本当に大事ですね。

小山:受付は大切なクリニックの看板ですから、マスク着用していても、必ず笑顔でお迎えしてもらっています。お迎えする心が大事ですが、それだけでなく、笑顔の筋トレも必要です。

藤平:顔の筋力を鍛えるトレーニングですか。

小山:笑顔も、筋肉トレーニングが大事なのです。口角下制筋の働きがつよいと下に引っぱられて「への字口」になり、本人はそのつもりでないのに不満顔に見えてしまいます。口角を上げる表情筋を訓練すればきれいな笑顔になります。
 脳の働きを解析する実験でも、口角を上げるか、上げないかで、同じ楽しいことをしていても、脳波はさらに楽しい方に変わるので、口角アップを心がけていると毎日が明るく楽しくなります。心と身体はつながっているということですね。

藤平:コロナ禍でマスク生活が長くなり、日本では、今度はマスクを外せなくなっている人が増えています。アメリカで指導していると、持病がある人を除けば、マスクをしている人はほとんどいません。

小山:欧米では口が見えないとコミュニケーションが取りにくいので、マスクが嫌がられるようですが、日本では相手の目が見えないと不安に感じるので、サングラスが嫌がられることがありますよね。

藤平:なるほど、日本では「目は口ほどにものを言う」と言いますが、欧米では口で表情がわかるのでしょうね。
 本日は貴重なお話をありがとうございます。

『心身統一合氣道会 会報』(46号/2024年1月発行)に掲載

ご自身の健康のために、どうか氣を入れて歯の手入れをして頂きたいです。

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