特別対談

三浦友史先生にお話をお聞きしました。

藤平信一 心身統一合氣道会 会長

東京工業大学 生命理工学部 卒業
慶應義塾大学 非常勤講師・特選塾員
幼少から藤平光一(合氣道十段)より指導を受け、心身統一合氣道を身に付ける。心身統一合氣道の継承者として、国内外で心身統一合氣道を指導・普及している。

三浦友史 先生

長岡技術科学大学 教授
技学研究院 電気電子情報工学専攻


東京工業大学合氣道部の卒業生で、藤平信一会長の先輩で、現在も心身統一合氣道の稽古を継続する三浦友史先生にお話をお聞きしました。緊急事態宣言の為、オンラインで対談を収録しました。

どうしたら相手に快く動いてもらえるか

藤平信一会長(以下、藤平):私が合氣道部に入部したときに、三浦さんはすでにD2(博士課程の2年目)で、7年も先輩でした。合氣道部の稽古が終わるとよく飲みに連れて行って頂き、大切なことをたくさん教えて頂きました。

三浦友史先生(以下、三浦):遠い昔のことで、あまり覚えていません(笑)。

藤平:あるとき、居酒屋でお通しがなかなか出てこなくて、忙しそうにしている店員に、私が「お通しが来てないですよ」と声をかけました。店員の表情は曇り「すみません」と言われましたが、その後も一向に出てきません。お店が混んでいて、忘れられたようでした。このやり取りをみていた三浦さんは、「日頃、道場で何を学んでいるの?」と言って、見本を示して下さいました。三浦さんはしばらく店員の動きをみて、一瞬、落ち着いたところを見計らって「お通しがまだなので頂けますか」と丁寧に声をかけました。すると、「ただ今、お持ちします!」とすぐに出て来るではありませんか。

三浦:その頃は大学に入って8年ほど心身統一合氣道の稽古をしていましたから、どうしたら相手に快く動いてもらえるか、少しだけ分かっていたのでしょうね。

藤平:日常の何気ないやり取りですが、「心身統一合氣道の五原則」そのものだと感じました。相手を自分の思い通りに動かそうとしたら、相手とぶつかってしまいます。相手の立場に立つことを稽古で学んでいるはずなのに、日常と繋がっていないことに衝撃を覚えました。

三浦:私は現在まで35年ほど心身統一合氣道の稽古を続けてきました。幸運なことに技を使わなければいけないような状況はありませんでしたが、稽古で学んだことは数多く日常で活きています。大学での学生とのコミュニケーションもそのひとつで、学生が研究に嫌々取り組むのか、喜んで自ら取り組むのかは、こちらの導き方次第です。

「話す」という行為は一方向ではなく双方向

藤平:三浦さんは、特に「話す」ことを大事になさっているそうですね。

三浦:「話す」ことが人間のコミュニケーションの基本だからです。話して、考えを伝えることが出来なければ、相手に自分の考えを分かってもらえません。理工系のシャイな学生は、得てして「自分が話さずとも、自分の心はいつの間にか相手に伝わっている」と思っているフシがあります。残念ながらテレパシストはそうはいないので(笑)、話すことで想いははじめて伝わります。
 「話す」という行為は一方向ではなく双方向で、相手の心に届くような話し方が大切です。「氣が出ている」状態だから相手のことが良く分かるわけで、伝えたいことが本当に伝わっているかも分かりますね。

藤平:あるとき、三浦さんから会話の「輪」について教わったことがあります。大人数でテーブルを囲むとき、幾つかのグループで話題は分かれるものですが、こちらの心の使い方次第で、大きな輪になったり、小さな輪になったりします。目の前にいる人に心を向けて、その人だけが分かる話題にすれば小さな輪になり、遠くにいる人まで心を向けて、皆が分かる話題にすれば大きな輪になります。輪を自在に操る三浦さんがマジシャンに見えました(笑)。

三浦:今、できるかな(笑)。自分の言葉が相手に届いているかどうかを判断して、リアルタイムでフィードバックし、話し方や問いかけの仕方、話題を変えるわけですね。相手の気持ちをグッと引き寄せて言葉を発するタイミングも大切です。

藤平:子どもクラスの指導をする時に、経験の浅い指導者はワーッと騒ぐ一人に掛かりきりになります。すると小さな輪になってしまい、今度は輪の外にいる子供たちが騒ぎ出して、収拾がつかなくなることがあります。

三浦:輪の外にいる人は、自分に向けて話をされていると感じていませんから、話を聞く姿勢になりません。
 聞く姿勢といえば、藤平光一先生の「間(ま)」の使い方を思い出します。あるとき先生の講義をお聴きした時、最初のひと言を発するまでがとても長かったのを覚えています。ニコニコしながら、「今!」というタイミングに「今日はみな有り難う」と話が始まり、その瞬間に会場にいる全員の氣が導かれて、聞く姿勢になっていました。「集中させる」「引きつける」というのは、言葉の使い方だけではなく、間が重要なのだと思います。

藤平:若手の指導者から「間はどのくらい取れば良いですか」と質問されることがあります。私は「誰のための間ですか」と尋ねるようにしています。自分にとって必要な「間」ではなく、相手にとって聞きやすく、理解しやすく、関心を持ちやすくなるための「間」ですね。

三浦:私が学生にそう聞かれたら「間は3秒。ストップウォッチで測ってみなさい」と言いますね。実際にやってみれば、「何かおかしいぞ?」「これ絶対に違うぞ!」と気が付きますから(笑)。

藤平:ああ、なるほど。自分で考えるように導いているわけですね。勉強になります…(笑)。
 三浦さんが教授を務める長岡技術科学大学は、国立としてはめずらしい技術に特化した大学だと聞いています。

三浦:1学年400人ほどで、その8割は高等専門学校(高専)からの推薦で編入してきます。受験を経ずに、高専で学んだ実務的な部分をさらに伸ばすために進学する人が多いです。男子学生が多く、いわゆるバリバリの「もの作り」「技術屋」「研究者」の集団です。

藤平:すると、口数が少ない学生さんも多いですか。

三浦:そうですね。だから、なかなか異性との出会いがない。自分で行動を起こさなければ見つからないのに、いつかどこかでタイミング良く出会うと信じているところがあって、積極的にコミュニケーションを取ることをしません。仲間同士でも気持ちを伝え合うのを怠り、そこにミスコミュニケーションが生じて溝ができて、ギスギスした人間関係を作りがちなのです。ここでつまずいてしまうと学校に出てこなくなります。そういったことが起こりやすいのです。

藤平:ゆえに、「話す」ことに重点を置かれているのですね。昨今では、理工系に限らず、自分の気持ちを伝えることを苦手にする学生が増えているように思います。三浦さんは、どのようなトレーニングをされるのですか。

三浦:新型コロナウイルスの影響下では難しいのですが、以前は週毎の対面のミーティングで、ひとりひとりが最初に「ハッピーニュース」を話す時間を設けていました。皆はそれにリアクションして質問する。否定するのではなく、話す人が気持ち良く話せる様なオープンクエスチョンです。気分が乗ってくると、研究についても皆で気楽に意見を言いあえる。たとえ毎日会っている仲間だとしても、アイスブレイクの時間を取ることで、コミュニケーションの質が変わってきます。

藤平:ハッピーニュースとは、どんな内容ですか。

三浦:「僕はこの間、靴を買いました」「どんな靴?」「凄く格好いい!」といった、たわいもないことです。理工系の学生は会話を盛り上げるのが苦手で、リアクションが薄く、それでは話す方もその気がなくなりますね。

藤平:ああ!それで思い出しました。合氣道部時代、私たち新入部員があまりにもリアクションが鈍くて、三浦さんからよく「君たち、師範のお話をボーッと聞いていないで、師範がもっと指導したくなるような反応をしなさい」と注意を受けていましたね。師範稽古の後に何度も反省会をしました(笑)。

三浦:大学で講義をしていても、学生の気分が乗ってくるとグルーブ感が出てきて、たいへん盛り上がります。決してワイワイ騒いでいるわけではなく、楽しく集中した状態になるのです。

合氣道部の伝統

藤平:合氣道部の話に戻りますが、三浦さんは大学時代、学部で4年、修士で2年、博士で3年、合わせて9年間も稽古されました。三浦さんにとっての合氣道部を教えて頂けますか。

三浦:面白くて、面白くて(笑)。最初は、技を効かせたくて、強くなりたくて、ガチガチの稽古をしていました。4年生になって幹部を引退すると、責任から開放されて余裕が出てきます。5年目くらいから「人を導く」のが面白くなってくる。幹部の学生がガチガチに後輩を鍛えようとするのを「まぁまぁ」となだめ、下級生をどう盛り上げていくかに氣を遣えるようになりました。
 当時、テニスサークルなどは「コミュニケーションできて当たり前」の人が入るところでした。合氣道部の良いところは、コミュニケーションが苦手な人であってもちゃんと稽古を継続できることで、それは先輩達の導きがあってのことなのです。

藤平:私もコミュニケーションがたいへん苦手でした。三浦さんから「興味があってもなくても、会話のキャッチボールできるくらいの素材を持とう」と教わり、それまで興味がなかったアイドル、カラオケ、三國志などを知る努力をしました。この習慣が身についたことで後々助けられ、あらゆる場面で会話に詰まることがなくなりました。それまでは「興味がないから」と知る努力を怠っていましたが、関心の「輪」を大きくしてからは、コミュニケーションを取れるようになりました。

三浦:それこそ東工大合氣道部の伝統なのでしょうね。先生方、先輩方の作られた伝統の中に身を置いているだけで、いつの間にか、大切なことが身についている。

藤平:「伝統」とは、教育における高度な仕組みで、人為的に作ろうと思っても、作れるものではありませんね。

三浦:そうですね。私は現在の大学に移って2年目ですからまだ研究室に伝統がありません。私が指示しなければ何も始まらない。伝統というシステムがあれば、先輩が後輩を教え、後輩も自ら動いてくれる。やるべきことが決まっていて、先輩が行っていることをみて後輩も自然にできるようになります。

藤平:時代と共に学生の気質も変わってきてはいませんか。

三浦:昔の学生も今の学生も変わらないと思います。伝統は無意識で頭に入ってくる文化。学ぼうとして伝統を学ぶのではなくて、そこに身を置くことで無意識で入ってくるものだと思います。だから学生には「研究室にいる時間を長くして欲しい」とだけお願いしています。

藤平:近々、大学で心身統一合氣道の同好会を始められるそうですね。

三浦:コロナの影響でまだ道場が使えないのですが、学生がやりたいと言い始め、屋外で稽古を始めたところでした。この冬は、新潟は大雪だったので活動できませんでしたが、春になったら正式に大学に同好会申請をする予定です。

藤平:本日は自分のルーツを探す旅の様な対談でした。コミュニケーションを苦手にしていた私が、最もコミュニケーションを必要とする役割に就いているのですから、東工大合氣道部にも、三浦先輩にも感謝しかありません。

『心身統一合氣道会 会報』(35号/2021年4月発行)に掲載

稽古で学んだことは数多く日常で活きています。

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当会では「合気道」の表記について、漢字の「気」を「氣」と書いています。
これは“「氣」とは八方に無限に広がって出るものである”という考えにもとづいています。


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