特別対談

三宅義和様にお話をお聞きしました。

藤平信一 心身統一合氣道会 会長

東京工業大学 生命理工学部 卒業
慶應義塾大学 非常勤講師・特選塾員
幼少から藤平光一(合氣道十段)より指導を受け、心身統一合氣道を身に付ける。心身統一合氣道の継承者として、国内外で心身統一合氣道を指導・普及している。

三宅義和 様

株式会社イーオン 代表取締役社長


昨年7月に昇段審査会で初段に合格された三宅義和様にお話をお聞きしました。

英会話教室に求めるもの

藤平信一会長(以下、藤平):心身統一合氣道の初段合格、誠におめでとうございます。

三宅義和様(以下、三宅):ありがとうございます。
 初段を目指すにあたって、用賀教室の前田先生をはじめ、有段者の先輩方が手取り足取り面倒を見て下さり、本当にお世話になりました。新型コロナウイルスの影響で昇段審査がどうなるのか心配していましたが、実施して頂いて本当に助かりました。

藤平:審査本番ではいかがでしたか。

三宅:緊張しましたが、最後は開き直って、リラックスして伸び伸びできたと思います(笑)。

藤平:それは良かったです。
 三宅さんは、本格的に稽古を始めて8年くらいですね。会社の社長をお務めになりながら、時間を作り出すのは大変だったのではないでしょうか。

三宅:週1回しか稽古できませんので年月はかかってしまったのですけれども、できるだけ日曜は稽古に通いました。道場の皆さんが本当に良い方ばかりで、「道場に行くのが大変だな」と感じる時でも、稽古後にはすっかり元氣になって、スッキリと爽やかな氣持ちで帰っていました。

藤平:リーダーのお立場として、新型コロナウイルスの対応ではご苦労がおありだと思います。英会話学校は基本的に対面のレッスンですから、いかがでしょうか。

三宅:昨年4月に緊急事態宣言が出てから、しばらくはお休みにしていたのですが、すぐに全国の各教室でタブレットを準備し、Zoomを活用し、オンラインでの自宅レッスンに切り替えました。その後、6月中旬から教室で対面のレッスンに戻しました。
 再開に当たっては、事前に受講生の皆様に「オンラインで継続されますか。それとも、教室でのレッスンに戻られますか」というヒアリングを実施しました。おそらく半々くらいだろうと想定していましたが、何と9割以上の方が「教室に戻りたい」という回答でした。

藤平:それはすごいことです。語学の学習であるのは勿論のこと、イーオンの生徒さんは語学以外の「何か」を求めているのでしょうね。

三宅:普段から、レッスンの終了後にレッスン満足度調査をスマートフォンで行っています。再開前のヒアリング調査で「教室に戻りたい」という方が多く、 また再開後のレッスン満足度も非常に高いということは、私共の学校に通って下さっている皆様は、先生とのフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションや、 仲間と一緒にワイワイやりながら楽しく学ぶことに魅力を感じておられることを改めて実感しました。

藤平:語学の学習である以前に、「氣の交流」が大事なのでしょうね。

三宅:英会話の場合はオンラインの良さもあるのです。例えば、教室ではマスク着用ですから、オンラインではマスクをしなくても良いので、先生の口元がよく見えます。
 これからは、「オンラインか、教室か」ではなく、教室を中心にしながら、補講・振替・特別コースはオンラインで行うといった「ハイブリッド」だと思っています。

藤平:目的によって、それぞれの良さを活用していくということですね。

「基礎の学習」と「正しい訓練」の重要性

藤平: 私自身もイーオンの生徒として長年お世話になりました。今でも私の心に強烈に残っているのが、三宅さんの「英会話学校に通うだけで英語が身につく訳ではありません。正しい訓練を継続するから身につくのです」というお言葉です(笑)。

三宅:厳しいことをお伝えしても意図を正しく捉えて下さる会長だからこそ、その様にお伝えしたのです(笑)。実際のところ、週1~2回のレッスンだけでは不十分で、日常でどれだけ英語に触れるか、訓練するかが大事です。
 日本の英語学習は、現在では小学校から行われているわけですが、どうしても「教科」として英語に出会うため、「読んで、訳して、辞書を引いて、意味をとらえる」のが英語の勉強だと認識しています。読んで分かったら終わり、となりがちですが、話して使うという観点では、「分かる」というのはまだその半分で、分かったものを使える様にするための練習が必要です。日本人学習者の勿体ないところは、なかなか皆さん声に出して訓練しないで、黙々と勉強されるケースが多いのです。「畳の上の水練」のようなもので、声に出さない英語の学習には、ほぼ意味がないと考えています。

藤平:確かに、リスニングだけで出来るようになる先入観がありました。イーオンでお世話になるまでは、私もそれなりの時間を使ってリスニングに取り組んでいましたが、全く話せるようにはなりませんでした。イーオンでネイティブの先生にチェックして頂いた上で、中学校レベルの英文の音読を毎日1時間続け、10ヶ月間ほどで驚くほど音を聞き取れるようになりましたし、話せるようになりました。TOEICのスコアもいきなり300上がりました。

三宅:誤解があるといけませんので、それは本当に日々練習されたことに加えて、会長の場合は受験勉強をしっかりされてセンター試験満点を取られるような英語の基礎力があったからです。英語学習は「基礎の学習」と「トレーニング」の両方が重要なのです。
 日本における英語学習をめぐる議論は迷走していまして、「勉強が大事」「コミュニケーションが大事」と両極端にぶれやすいのですが、そうではなくて、英語をマスターしようと思うなら、単語力と文法力という基礎をしっかりやるのが極めて重要です。その上で、日々、トレーニングをする。その意味では、英語学習は、スポーツや楽器の練習と完全に同じで、そのため私は「英語は筋トレ」と言っています(笑)。

藤平:なるほど、受験勉強の英語も決して無駄ではなかったのですね。私の場合は、正しいトレーニングが不足していたわけですね。

三宅:なぜ声を出す練習が良いかと言うと、「自分が声に出せる音は自分の耳が聞き取れる」からです。聞き取りをすることは決して悪いことではありませんが、声に出す練習をした方が遥かに早くリスニング力が身につきます。ですから私共では、音読、できれば、音源を聞きながら一緒に声を出す方法(オーバーラッピングという練習法)を推奨しています。

藤平:英語特有の「呼吸」や「間」が自然に身に付いていきますね。
 そういえば、イーオンでお世話になった講師の一人に、とても氣が出ている女性がいました。レッスンでは、テキストを普通に読むだけではなく、本当にそのシチュエーションに身をおいて発言しないと許してもらえません。例えば、「道に迷っています。あと15分で駅につかないと電車の時間に間に合いません。駅への近道を教えて頂けますか」という例文をただ読むと、「全然、困っていないですね~」と言われます(笑)。そこで、その場で立ち上がって、役者のように本当に焦った心の状態になって、自分の言葉として発する。生きた英語を訓練したことは、後々、海外での指導で本当に役立ちました。
 ですから、音読もただ文字を読んで声を発するのではなく、そこに心が入ることが大事であることを学びました。まさに「心身一如の音読」ですね。

三宅:それは本当に重要な点だと思っております。我々、日本人学習者が氣を付けなければいけないのは、ともすれば「練習の為の練習」になることです。実践(アウトプット)を前提としたトレーニングになっているかどうか。本当にその氣持ちになって使う練習をするというのは極めて大事だと思います。

藤平:その意味で、私にとって最大の訓練の場が、海外での講習会です。英語で指導するだけでなく、質疑応答やミーティングも全て英語ですので、いつも全身の神経が研ぎ澄まされる感じがあります。始めの頃は、相手の言葉を理解しようとしていたので、聞き取れない音があるとお手上げでした。相手が発する氣をみるようになってからは、聞き取れない音があっても執着することがなくなり、結果として相手が伝えたいことを良く理解出来るようになりました。考えてみれば、「言葉」はお互いを理解するための手段ですね。

三宅:深いお話ですね。

藤平:これから英語を身につけたいと思う方は、まず基礎を学ぶ必要があるのでしょうか。

三宅:「日本人は文法を学ぶから英語を話せないのだ」と、文法が悪者にされるのですが、そんなことはなく、文法をしっかり理解することで、実はコミュニケーション能力が伸びるのです。文法とコミュニケーション能力は決して相反するものではなく、文法をしっかり理解すれば「本当に言いたいこと」をしっかり言える様になる。例えば、「仮定法過去完了」という文法があります。「そんな難しい文法は日常会話では使わない」という人がいるのですが、そんなことは全くなくて、我々は頻繁に使っています。何か後悔する場合に使うことが多いのですが、「セールしているのを知っていたら、私も買いに行ったのに」とか、「もう少し背が高かったらバスケをやったのに」とか。そういったことをしっかり英語で言えるのと、「Hi! How are you?」しか言えないのでは、コミュニケーションの深さが違ってきます。基礎単語力、文法力は非常に重要なのです。

藤平:基礎や土台に見合った建物がつくられる感じですね。基礎力が高ければ高いほど、伸び代が大きい。

三宅:まさにそういうことです。

「学習」そのものが楽しい

藤平:新型コロナウイルスの影響下では外国にも行きにくく、外国の方も日本に来にくい状況ですから、語学習得の目的を見失う方もいらっしゃることと思います。どのようにモチベーションは保たれているのでしょうか。

三宅:「英語学習そのものが楽しい」ことがあると思います。人との出会いがあり、コミュニケーションの喜びがあり、毎回、感動があって楽しい。または、映画や本、YouTubeやインターネットの情報、先日のアメリカの大統領選の情報もCNNニュースを見て英語で聞くと非常に楽しい。もっと重要なのは「英語で何かを行う」ことで、そこに喜びがあると思うのです。今は海外に行けなくても、いずれまた行ける様になりますし、今の状況でも、できることはたくさんあります。

藤平:「学習」そのものが楽しいというのはキーワードですね。世の中では、「学習」というと苦しくて大変なもの、と捉える方もおられます。本来、「学習」とは楽しいものですね。

三宅:私は心身統一合氣道の稽古が楽しいです。体力的、精神的に少々しんどいときでも、稽古に行くと、毎回楽しくて、帰る頃には元氣になっています。「学習」にしても「稽古」にしても、楽しいものなのか、苦しいものなのかで、得られるものは大きく違って来て、結果としてそれがモチベーションに繋がっているのだと思います。

藤平:心身統一合氣道の稽古の目的は「氣を出す」ことであり、道場は氣を出すことを実践する場ですから、三宅さんは、とても良い稽古をなさっているのではないでしょか。

三宅:ありがとうございます。
 イーオンでも、「先生もスタッフもすごく元氣で、英語のレッスンも楽しいけれど、皆さんとロビーにいるだけで元氣になれる」という方がたくさんおられます。常にそうありたいと思っております。
 社内でも、よく心身統一合氣道の話をしますし、実はイーオン東京本社には4名、心身統一合氣道を学ぶ社員がおります。一人が三段、二人が初段、一人はこれから五級に挑戦します。
 氣を出すことで仕事が楽しくなる、生きることが楽しくなる、毎日が積極的になれる。非常に大きな意味が稽古にはあると思います。

藤平:三宅さんご自身は今、どのようなことを大事になさっていますか。

三宅:外国人教師が日本に来られない状況が数ヶ月間も続いたのは私共にとって、運営上、非常に大きなことでしたし、社員や受講生に感染者が出たらどうするかなど、心配は尽きませんでした。本当にありがたいことに、氣の呼吸法を行ったり、心身統一合氣道の技をイメージしたりするだけで、心も身体も緊張が解れてスッと楽になりました。
 氣の呼吸法を寝る前に15分しますと、スッと眠りにつけて助かっていますし、私が最初に学ばせて頂いた氣圧法も毎朝、活用しています。朝起きる前に15分、目や顔の氣圧を行うとシャッキッと目が覚めます。
 私が仕事を続けていられるのは、心身統一合氣道のお陰で、心から感謝しております。

藤平:藤平光一先生は、心身統一合氣道を「生活の中の合氣道」と説きました。そこまで活用をして頂いて、喜んでいると思います。

三宅:勿論、出来ていないことも一杯ありまして、稽古では今も相手と氣がぶつかることがありますし、家内からは「全然できていない」と言われています。先日も「人の話をよく聞きなさいと言っている割には、あなたは人の話を全く聞かない」と言われまして、「そんなことない!」と答えて、「それ、それ!」と…(笑)。

藤平:家族の評価が最も厳しいですから(笑)。
 全国の会員には、有段者を目指して一生懸命稽古なさっているビジネスパーソンがたくさんいらっしゃいます。最後に一言、メッセージをお願いいたします。

三宅:道場の先生から「初段の場合は、細かいことにこだわらず、氣が出ていることが大事」、と言われましたので、伸び伸びと稽古できたのが良かったと思います。「氣が出る」稽古を心がけることではないでしょうか。
 何だか偉そうにすみません(笑)。

藤平:本日は有り難うございます。

『心身統一合氣道会 会報』(34号/2021年1月発行)に掲載

私が仕事を続けていられるのは、心身統一合氣道のお陰で、心から感謝しております。

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当会では「合気道」の表記について、漢字の「気」を「氣」と書いています。
これは“「氣」とは八方に無限に広がって出るものである”という考えにもとづいています。


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