特別対談

堀威夫様にお話をお聞きしました。

藤平信一 心身統一合氣道会 会長

東京工業大学 生命理工学部 卒業
慶應義塾大学 非常勤講師・特選塾員
幼少から藤平光一(合氣道十段)より指導を受け、心身統一合氣道を身に付ける。心身統一合氣道の継承者として、国内外で心身統一合氣道を指導・普及している。

堀威夫 様

ホリプロ創業者


大手芸能プロダクションのホリプロの創業者である堀威夫様は、ホリプロ創立60周年を迎えた2020年6月にホリプロから完全に退かれました。その決断には実業界で大きな話題となりました。
堀様は2020年10月15日で満88歳を迎えられました。現在も心身統一合氣道の稽古を継続なさっています。

「勢い」

藤平信一会長(以下、藤平):このたびのホリプロご退任に関して、どうしてもお尋ねしたいことがあり対談の機会を頂きました。
 早速ですが、ホリプロからは完全に退かれたのでしょうか。
堀威夫様(以下、堀):そうです。

藤平:生涯をかけて大事にして来られたわけですから、何らかの形で会社と関わりをお持ちになるものとばかり思っていました。どのような思いで決断されたのでしょうか。

堀:そんなに大それた事ではないのですけど、きっかけは「働き方改革」です。国から言われて、現場で一生懸命やっている訳です。僕は、あれには多少疑問があるのです。多分、年寄りの物差しと現代の若者の物差しとの違いだろうとは思うのですが、これを忠実に実行していくと、ホリプロという集団の「勢い」が削がれるのではないかな、と。

藤平:「勢い」を大切にされたということですか。

堀:孫子の兵法にも、「善く戦う者は、これを勢いに求めて、人に責めず」というくだりがあります。勢いというものは、意識して作っていかなければならない。ただし、作れたときに、勢いに任せて仕事をしてもいけない。「働き方改革」を忠実に実行しながら勢いを付けていく為にはどうするかを一生懸命考えていたのですが、どう考えても相反関係となって良い考えが浮かばない。それで、最も単純に、自分にかかっている固定費を浮かして、その分、人間を増やそうと考えました。

藤平:新しい人、若い人を増やすことで勢いを作るということですね。

堀:単純計算で今までと同量の仕事をする為には人数をいくらか増やさないとできないはずなのです。これを克服する為に、自分が引いてみよう、と。これがきっかけです。

藤平:堀さんがお考えになる「働き方改革」の疑問とは何でしょうか。

堀:「働き方改革」は何かこう、日本人の良さをなくしていく方向にならないかなと心配しています。
 国際社会の中で、これまで資源の少ないこの小国が世界に伍して行けるようになった最大の要因は、日本人の持っている勤勉な実直さではないかと思うのです。外国人から見たらワーカホリックに見えるかもしれないけど、これは文化の違いですよね。その部分を削いでしまって、本当に日本の将来はどうなるのだろうか、と。その頃は、自分はもう死んじゃっているのだから分からないけれど…(笑)。

藤平:芸能プロダクションは、ここからここまでの範囲で働けば良いという職種ではないですね。

堀:工場みたいにラインがあれば分かりやすいのですが、僕たちの様なソフト産業の「もの作りの場」というのは、なかなかこの問題は消化しにくいと思います。
 グローバリゼーションの名の下で、「他の国と同じ行動をするということが本当に良いのか」「アイデンティティーが無くなってしまうのではないか」と。僕は、欧米の人たちの生き方が悪いと言っているのではなく、日本の将来の為に「働き方改革」を些か疑問に思うのです。

100年企業のために

藤平:日本には、戦争や自然災害、経済危機を乗り越えている業歴100年以上の会社が2019年現在、約33,000社もあって、しかも世界で最も多いそうですね。
 堀さんは、ホリプロが60周年を迎えるにあたって、「100年企業を目指していく」とメッセージを出されました。堀さんの考える「100年企業」とは何でしょうか。

堀:「神のみぞ知る」で全く分かりません(笑)。ただ、100年後に存続していたとして、「ホリプロには、どうも昔は役者がいたらしいよ」とか、そんな会話が交わされる様なことになる可能性もある。もし、生き残れたとすれば、ですよ。僕は自分が身を引く為のメッセージは去年の暮れから色々考えて、「この60周年というものをゴールととらえないで欲しい。むしろ100年企業を目指すスタートラインだと思って欲しい」と語ったのです。

藤平:「昔は役者がいたんだよね」と言われることに、抵抗はありませんか。

堀:全くないですよ。世の中の変化に対応して変わり続けないと、おそらく100年は生き残れないと思います。でも、これはただ想像するだけで全く分かりません。

藤平:堀さんは、ホリプロをパブリックカンパニーにする為に、「堀」という名前のつかない二代目の社長を選ばれました。これも100年企業のためにされたことですか。

堀:自分達がやっていることを世の中に産業として認知してもらう一つの手段として考えていただけです。昔は、経営的にもモラル的にも、色々な意味で非常に危なげなものだったのです。そういうものに対して僕は非常に反発していましたが、そうではないことをいちいち言い訳して歩く訳にもいかない。何とか払拭しないと良い人材が集まってこない。どうしたら良いかを考えた結果、これしか方法が無かった。だから、パブリックカンパニーの集合体から見れば不純な動機ですよ。

藤平:なるほど、必要があってされたことなのですね。そして、この度のご退任の決断も同じということですね。
 堀さんは「人生という長い文章を、読みやすくするために句読点をつけているだけ」と言われました。それにしても、これだけお元氣で、すでに経営からは退かれているわけですから、完全に退任されるのは早いと感じる方も多いと思います。

堀:そうは言っても間もなく88歳ですからね(笑)。もともと僕は、「早めに仕掛けて失敗することは恥では無い。遅めに仕掛けて失敗することは恥と知れ」と言ってきました。だから、自分のことも世の中から見て少し早いと思われるような句読点の付け方をしています。

藤平:それは昔からのお考えですね。

堀:ええ。ですから、40代くらいから「自分は50歳で社長を辞める」と宣言して、実際は51歳で辞めました。役員の任期が2年だったものですから、そこまでこだわることはないかなと思って51歳でした。年限を切ることが目的ではなく、具体的な出来事を想像しながらやるわけです。先程の「パブリックカンパニーにする為に、堀という名字でない社長を生まなければ」とかね。でも、それが本当に正解かどうかは分からない訳ですが。
 今回辞めるにあたって、異なる業種の人たちに話したのですが、「そこまで遠慮することはない。辞めても会社の車を使え」などと言われました。でも、僕は遠慮で辞めるのではない。要するに、背中で後輩たちに教えていきたい。自分だけ「創業者だから特別に扱う」ということはしない。本当に「100年企業」を目指すのであれば、いわゆる企業文化として、出処進退というメリハリを、嫌々迫られてとか犠牲的精神ではなくて、自分の意思でスパッと出来る会社でありたいと思うのです。

藤平:たいへん失礼ながら、お仕事を辞めることで衰えると周囲から心配されませんか。

堀:色々言ってくれる人は、「ルーティーンの仕事を辞めると寿命が短くなるぞ」と(笑)。確かに一般的には言われていますが、それに挑戦しようと思っています。要するに、「ルーティーンワークから外れたら、ひたすら老いさらばえていく」とならない自分ができるか、やってみようと思うのです。

藤平:人生の「四毛作目」ということですね。

堀:そうなりますね。世の中の通説みたいなものに挑戦してみるのは面白い。僕は性格的にテーマというか目標がないと生きられない人間なのでしょう。

藤平:ゴルフでは、既にエージシュートを達成されましたから(笑)。

堀:自分にとって楽では無く、さりとて無理でもないテーマを絶えず与え続けて、それを全うできたとすれば、その一つ一つが自分の人生の財産になるのかな、と思います。
 こういったことは与えられているものではなく、自分で作ることだと思うのです。
 学生と社会人との差は、学生は与えられたテーマを解きますが、社会人が解く問題は人からは与えられない。これが大きな違いだと僕は思うのです。だから、解くつもりが無ければ問題そのものがないわけだから、のほほんと生きている社会人もいます。

これからの時代は、「人物」の時代

藤平:先程の「勢い」のお話をもう少しお聞かせ頂けますか。集団において勢いが大事とのことですが、何をすると勢いは強くなって、何をすると弱くなるものでしょうか。

堀:放って置くと、弱くなる。「マンネリ」によって一番弱くなると思います。僕は勢いを付けるツールというのは無数にあると思います。例えば、会社の引っ越しも良いですね。そういうことを絶えず意識して作っていかないと駄目だと思います。

藤平:すると、人事異動も勢いになるということですね。

堀:勿論、間違えれば、逆に勢いを削ぐこともありますけど。勢いを付けるツールは、本当に無数にあると思います。

藤平:つまり、勢いというものがみえているかどうかが重要ですね。勢いと言っても全く伝わらない人もいませんか。目に見えないものでしょうから…。

堀:それはそれで仕方がありません。そもそも我が社にいつも勢いがあったかどうかもは分かりませんが、自分なりに常に勢いは付けていたつもりというだけです。その勢いのお陰で、自分の能力以上の結果を出していたことも沢山あったと思います。

藤平:勢いがある時は自然に前に進んでいけるのですが、一端、勢いが削がれてしまうと、何をやっても上手く行かない。私にはそんな感覚があるのですが、いかがでしょうか。

堀:自転車は漕がなければ止まって倒れてしまうのと同じでしょう。

藤平:なるほど、勢いがないと倒れてしまい、勢いがつきすぎても危険ということですね。

堀:だから、勢いができた時にリーダーが何をするかというと手綱を締めることなのです。精神衛生的には矛盾したことをやる訳ですよ。競馬の騎手のように、走りが弱い時には鞭を入れて、鞭入ってワッと走り出したら少しおさえるとかね。その塩梅というのかな。

藤平:芸能プロダクションでいうところの勢いとは何でしょうか。

堀:例えば、偶然スーパースターが誕生すると、それはそれで勢いにはなるのですが、そこに氣がついていないと、手綱を締めることも緩めることも出来ません。ずっと走りっ放しでは駄目なのです。

藤平:勢いを感じ取れているか、ということですね。

堀:タレントに勢いがないときは、嘘でも良いから「俺に任せておけば大丈夫だ」と伝え、反対に、勢いがあるときは「勝って兜の緒を締めよ」と伝える。僕が現場にいた時代は、後輩たちにそう伝えて来ました。
 タレントは売れなくて悩むだけではなく、売れていても悩みます。「相当なスピードで走っているな。事故を起こさないだろうか」と怖くなるのです。

藤平:なるほど、これも自転車の例えの通りですね。速度を出せば目的地には早く着きますが、その分リスクは高くなる。速度を抑えればリスクは低くなりますが、目的地に着くのに時間がかかる。速度は出せば良い、抑えれば良いというものではなく、上り坂か下り坂か、舗装路か未舗装路か、晴天か雨天かなど、状況によって常に変化するわけですね。

堀:ある時は「急がば回れ」みたいなことも考えなければいけない。天下を取るタレントなんかは競争相手が何人かいます。例えばベストテンの1位にAさんがなった。こちらはベストテンに入れなかった。人氣を争っているにもかかわらず、ちょっと心配になるのですな。そういう時、この仕事は「長く生き続ける」ことが大事で、瞬間風速は関係ありません。だから僕は、その瞬間の順位でいちいち一喜一憂するな、と。マラソンみたいなものだから、1位でゴールインすることが大事、と伝えるのです。

藤平:天地の運行を変えることは出来ませんが、自分の勢いは速度を変えることで調整が出来ます。
社会全体がコロナで停滞している時に、無理に速度を上げろということではないわけですね。現状に合った適切な速度があって、速度を出せる時には出し、抑えるときに抑える。速度を抑えたからといって、長い目で見て勢いが失われるということではないのですね。

堀:そう、失われないと思うのです。だから、「ひと呼吸」入れる時は当然あるのです。ずっと走りっ放しでは馬だってへたってしまいますから。その塩梅は、良きリーダーたちは、科学的には説明できない感覚やセンスというもので体得しているものです。

藤平:ただ、組織がそういう人材を見い出すことは、決して容易ではありませんね。

堀:人材というのはスカウティングとかでいくらでも代わりがきくと思います。だから、むしろ「人物」が欲しい。これからの時代は多分、「人物」の時代じゃないかな、という氣がする。人間力みたいなものが感じられるか。

藤平:「人物」というのは代わりがきかない人であり、その人ならではのものを持っているということですね。

堀:会社も人間も「らしさ」「ならでは」の時代なのだと思っています。

藤平:本日も貴重なお話を有り難うございます。

『心身統一合氣道会 会報』(33号/2020年10月発行)に掲載

堀威夫様と、藤平信一会長の対談動画を、YouTubeの心身統一合氣道会 公式チャンネルで公開しています。

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これは“「氣」とは八方に無限に広がって出るものである”という考えにもとづいています。


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