特別対談

横山仁一様にお話をお聞きしました。

藤平信一 心身統一合氣道会 会長

東京工業大学 生命理工学部 卒業
慶應義塾大学 非常勤講師・特選塾員
幼少から藤平光一(合氣道十段)より指導を受け、心身統一合氣道を身に付ける。心身統一合氣道の継承者として、国内外で心身統一合氣道を指導・普及している。

横山仁一 様

舞台演出家


舞台演出家であり、1992年に早稲田大学で結成された「劇団東京オレンジ」を主宰している横山仁一さんにお話をお聞きします。横山さんは俳優の堺雅人さんのご紹介で、昨年、心身統一合氣道の稽古を始めました。現在、心身統一合氣道4級を目指して熱心に稽古なさっています。
新型コロナウイルスの感染防止のため、オンラインで対談いたしました。

「氣が出る」ように導く

藤平信一会長(以下、藤平):横山さんは、舞台の演出やミュージカルの指導、舞台人の育成をなさっています。演出家の道を選ばれたきっかけを教えて頂けますか。

横山仁一様(以下、横山):あまり、積極的な理由ではなかったのですよね(笑)。「誰もしないなら、じゃあ俺がやる」と始めた感じでした。最初は俳優をしていました。所属していた劇団のトップが、「テレビの仕事が決まったので劇団を畳みます」と僕が大学5年生の時に言い始めて(笑)。そんなときに、早稲田の演劇サークルの先輩が自分で脚本を書いて演出する一人芝居の企画を立ち上げるというので、劇団から捨てられた仲間たちと観に行くことにしました。終演後に飲みに行って、「俳優だけでも演劇はやれる!」と盛り上がって、畳むはずの劇団を私が引き継ぎました。

藤平:自然な流れだったのですね。俳優から演出家に転向したきっかけは何でしょうか。

横山:最初は「主演俳優をしつつ演出もやる」というスーパースターの様なことをしていました。ところが、第1回の公演には700人も動員していたのに、公演ごとにじりじりお客さんが減っていって…(笑)。そのころ、堺(堺雅人さん)が2年目だったのですけど、凄くやる氣があったので、堺を主演にして、自分は舞台に上がるのをやめました。そこから先は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで伸びていきましたね。

藤平:「演出家」というお仕事は、具体的にはどんなことをするのですか。

横山:演出家というのは、「数多ある要素の中の何を強調して何を引き算して、どの要素をより効果的に観る人に感じさせるか」を体現するのが仕事の根幹です。何を強調して、何を引き算して、どういう印象を与えるのかの作業が、作品における「演出」です。「これがこの人の売りになるな」ということを強調し、邪魔している要素を引き算して、その人が魅力的に見える様にするのも、育成における「演出」ですね。

藤平:「作品」であれ「人」であれ、持っているものを活かす仕事なのですね。

横山:だからこそ、僕は凄く心身統一合氣道の影響を受けているのだと思います。周囲がいうには、最近、僕は合氣道の話題になるとやたら饒舌になるそうです。長年煩っていた座骨神経痛も慢性の肩こりも睡眠トラブルも治ったこともあって、すっかりのめり込んでいます(笑)。

藤平:それは良かったです(笑)。道場の稽古ではどんなことを感じていらっしゃいますか。

横山:「全体を見る」ことでしょうか。僕の仕事は本来の意図として、俳優や物語がどこに向かおうとしているのかを常に見極めながら、その行き先に向けてアシストすることです。違う方向に無理に行かせようとしても、その人が全く活きない。今まで自分が考えてきたこと、蓄積してきたことを、心身統一合氣道の哲学で裏付けしてもらって再構築しているような感じがあります。

藤平:稽古では、横山さんは「人」をよくみていますね。その人がどんな人で、どこに行こうとしているのか、をみている。たいていは、「相手をどうやって投げるか」にとらわれているので、「人」をみるようになるまで年月がかかることが多いのです。演出家の皆さんは、同じ視点を持つ人が多いのでしょうか。

横山:演出家にも様々なタイプがあって、「俺の流れに乗ってこい」という感じの人もいます。素材を活かすというよりも「この世界に来られる奴だけ付いてこい!」という感じで、一つの世界を作っていきます。僕の場合は、放っておいてもそれぞれが向かうべき道を自覚でき、自動的に人間関係や集団性が上手く行くことを大切にしています。必要最低限の手数で、色々な流れが自然に整っていくのが理想なのです。

藤平:なるほど。それは指導の現場でも同じことがあります。丁寧に指導させて頂くのは基本なのですが、それによって本当に相手が良くなるかといえば、そうとは限りません。指導においては薬でいうところの「副作用」のようなものがあって、伝え過ぎることによって、その人が自身で会得する機会を奪ってしまいます。

横山:本当にそうですね。手を入れすぎて素材を駄目にしてしまうことは分かっているのですが、実践はまだまだです(笑)。心身統一合氣道の稽古をしっかりして、これから10年は積み上げていかないといけない感じです。

藤平:俳優さんの場合、自身の「売り」をどのように理解するのですか。伝えて分かることではないでしょうし、俳優さん自身で突き詰めていった先に生まれるものなのでしょうか。

横山:そんなに難しいことではなくて、楽しそうにしていることや、本人にとってエネルギーの高いことを中心に進めていって、「それ良いから、もっとやりなよ!」と言っているうちに、その人のメインストリームが太くなっていきます。

藤平:「氣が出る」ように導いていく、ということですね。

横山:そういうことです。

藤平:堺さんの個性もその様に開花したということなのでしょうか。

横山:そうかもしれません(笑)。

藤平:2019年の夏に、横山さんの演劇のグループに氣の講習をさせて頂いた際に、講習後に参加者でディスカッションする時間がありましたね。それを側でお聞きしていて、私はすごく関心を持ちました。私は講習会などで多くの人に指導をする機会がありますが、何というか、舞台と共通しているものがあると感じたのです。人をよく見ること、人を活かすこと、そういった大きなテーマがあるように思います。

横山:会長がよくされる「性質」の話などは、正にそうでしょうね。性質を理解するからこそ、その性質を活かすことが出来ます。

藤平:人を導くのに「正解」はなく、その人が「氣が出る」ようになることが最も重要ですね。ディスカッションで横山さんの話をお聴きしていて、その人が持つ尖ったところをより尖らせ、最終的に必要な形に整えているように感じました。

横山:最初から色々整えてしまうと、「どういう人なのか」が分からなくなってしまいます。一見周囲に受け入れられにくい要素だったとしても、一番尖っているところは、その人の強みになる大事な要素かもしれない。極力、そこを拾っていく。たいていの俳優は「変えた方が良い」「止めた方が良い」と言われ続けて来ているので、「本当に良いのですか?」と喜んでくれます。何より、そうでなければ「あなたが、あなたではない」と思うのです。

藤平:配役も演出家の大切な仕事ですね。

横山:仕事の6割かもしれないです。キャスティングが上手く行けば、放っておいてもそのまま伸びていく感じがあります。演出家によってやり方は違うかもしれませんが、僕の場合は、作品の選定・選曲・キャスティングなど、最初に何を選んで、どういう構成のカンパニーにするのかが最も大事な仕事だと思っています。そこが上手くいかないと、無駄に時間がかかります。違うところに違う種を蒔いてしまう感じですね。

「言葉」によって伝わるのではなく、「氣」によって伝わる

藤平:適切な場所に種を蒔く上で、大切にされていることはありますか。

横山:言語化できる尺度はないのですが、登用の仕方として、そのまま活かすか、あるいは逆のことをさせると、その人を活かせることが多くあります。例えば、おしゃべりな人にわざと寡黙な役をさせると意外と面白い。意図的に逆の性質を求めると、「本当は一杯しゃべりたい」みたいなものが湧き出てきて、最後の重要な局面で、ため込んできた思いを吐き出せることもあります。

藤平:「逆」を求めているようで、実は「真」を得ているわけですね。

横山:人は何かを隠せば隠すほど、その要素がにじみ出てきます。「好きだという思いを言葉に出来ない」と思うほど、周囲には「あいつ、あの人のことをきっと好きなんだ」が分かります。演技においてはその方がお洒落で、自分の心の状態を言葉にしてしゃべると鈍くさくなります。演劇の現場では、本来、持っている性質を隠そうとするほど、その人の濃度が出て来て、ここ一番でその性質が武器になります。

藤平:「言葉」によって伝わっているのではなく、「氣」によって伝わっているということですね。観客の立場からみても、言葉で説明されることで冷めてしまって、現実に引き戻される感じがあるのは分かります。

横山:演技の世界では、見せかけ、小手先がはびこっていますが、実力のある俳優は、それでは通用しないことが分かっているので、その役の目標を見極めていきます。演技論の世界的バイブルに「スタニスラフスキー・システム」というのがあります。スタニスラフスキーがチェーホフのリアリズム演劇作品を演出する為に、確立したものです。彼の言葉では「超目標」と言いますが、役が持っている本当の行き先、例えば「母に愛されたい」とか、何して欲しいかを見極めて役を組み立てなさい、というものです。それがハッキリしている俳優の演技は、行くべき道が見えてくるので、途中でどんな横槍が入ってもブレずに向かっていけます。人生も同じだと思うのですけれど、行くべき道が見えていないときに、目の前の問題で立ち止まってしまいます。超目標が見えている人にとっては、どんな問題でも乗り越えていけるし、悩んでいる暇もないですね。

藤平:なるほど、これこそ心身統一合氣道の稽古に通じていますね。演出家の最も大事な仕事は、その「行くべき先」を一緒に確認していくことなのですね。

横山:現代劇の場合は、ただ台本を読んだだけではその役の目標が分からないことが多いのです。リアリズム演劇という「何だか分からないけれど衝動がある」という心のメカニズムを分析する中で、演出家という仕事が誕生しました。俳優とコミュニケーションを取って、「この役はきっとこうしたいのでは?」と探していく。そこが見えないと、人の「行い」として面白くならないのです。

藤平:名人と言われた舞台俳優が、上演中に舞台セットの一部が倒れてしまったときに、「さも粗末な家屋じゃのう」と言って、何事もなかったように続けたことがあったと聞きます。そこで動揺していたら舞台は台無しですが、行き先が分かっていれば、突発的なアクシデントにも動じないということですね。

横山:新型コロナウイルスもきっと同じで、「コロナでどうにもなりません」とはならず、苦戦しながらも、前に進んでいけると思うのです。

藤平:行き先に向けて氣が通っていれば、目前のことは氣にならない。自動車を運転するときに、ワイパーが氣にならないのと一緒ですね。
 本日は貴重なお話を有り難うございます。

『心身統一合氣道会 会報』(第32号/2020年8月発行)に掲載

性質を理解するからこそ、その性質を活かすことが出来ます。

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当会では「合気道」の表記について、漢字の「気」を「氣」と書いています。
これは“「氣」とは八方に無限に広がって出るものである”という考えにもとづいています。


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