特別対談

文野直樹様にお話しをお聞きしました。

藤平信一 心身統一合氣道会 会長

東京工業大学 生命理工学部 卒業
慶應義塾大学 非常勤講師・特選塾員
幼少から藤平光一(合氣道十段)より指導を受け、心身統一合氣道を身に付ける。心身統一合氣道の継承者として、国内外で心身統一合氣道を指導・普及している。

文野直樹 様

イートアンド株式会社 代表取締役会長


焼き餃子で有名な「大阪王将」をはじめ、数々の飲食店を多店舗展開するイートアンド株式会社(前・大阪王将食品株式会社)の二代目社長であり、現会長の文野直樹さんにお話を伺います。文野さんは現在、心身統一合氣道を熱心に学ばれています。

二代目として事業を発展させるためには

藤平信一会長(以下、藤平):文野さんは経営コンサルタントの青井博幸さんのご縁で心身統一合氣道を始められました。対談させて頂くにあたって文野さんのご著書を拝読したところ、文野さんも私と同じ二代目でいらしたのですね。

文野直樹様(以下、文野):そうですね(笑)。

藤平:ご著書のなかで、二代目として事業を発展させるためには「目標となる人」「モデルとなる人が必要」だと書かれていました。詳しく教えて頂けますか。

文野:そもそも経営者は、モチベーションをどこに向けるのか、これからどの山に登るのかが鮮明に決まらないと成熟していきません。そのために、身近にいる人をベンチマークする。向かっていく方向、登っていく山をより身近な人で描くということです。

藤平:身近な人だからこそ、より具体的で鮮明に描けるわけですね。

文野:そうです。ただ、あまりに身近な「自分がなりたい経営者像」ですと、ベンチマークして、研究していくうちに事業規模を抜いてしまうことがあります。すると、つい驕りが出て来て、事業は停滞します。だからこそ、「どこまでいっても追いつけない人」と巡り会うということは、すごいことだと思うのです。僕の場合は、たまたま同じ大阪の枚方出身の増田宗昭さん(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 代表取締役社長兼CEO)に出会った。本当に僕の成長にとって欠かせない人なのです。もっと言えば、「絶対に抜けない人」という点では、歴史上の人物とか実在しない人でも良いのかもしれません。

藤平:「自分の思い通りに」「自分なりに」という経営者も多いなか、ベンチマークするという文野さんの発想はどこで身についたのでしょうか。

文野:身についたというよりも、必要があってそうして来た感じです。「生活文化を提案する会社に」という理念を持って、会社の理想像を鮮明にはしていますが、そもそもそこには到達していないのです。ですから、現状に満足するということはありません。常に課題があって、「もっと!」「もっと!」という状態ですから(笑)。

藤平:だからこそ、ベンチマークするという姿勢に繋がるわけですね。

文野:そうですね。ですから、少なくとも経営においては、常に「謙虚な氣持ち」「素直な氣持ち」「感謝の氣持ち」は持っていないといけません。それがあれば、おのずと目標は高くなるように思います。

藤平:稽古も同じことで、「自分の思い通りに」「自分なりに」稽古をする人は上達をしません。身近で目標となる人を持つことは大切なことです。さらに言えば、師弟関係においては、文野さんが言われる「どこまでいっても追いつけない人」を師匠に持つわけですね。

文野:どの分野でも同じことなのでしょうね。

「ぶつかる場所」をつくらない

藤平:文野さんの代になってから東証一部の上場企業になりました。おそらく会社の組織づくりも経営戦略も、それまでと大きく変わったわけですね。これだけ劇的な変化をどのように乗り越えて来られたのでしょうか。

文野:「立ち止まると潰れるだろうな」との思いで乗り越えて来ました(笑)。いま意識している大きな会社が二つあって、「そこに勝つまでは!」という思いもあります。ランチェスターの弱者の戦略で、規模では負けていても「一騎打ち戦」や「接近戦」では絶対に負けない戦略を持ちながら成長させて来ました。

藤平:「餃子の王将」はその一つでしょうか。

文野:「大阪王将」は父が49年前に脱サラして始めたものですが、「餃子の王将」と正面衝突しても敵いませんし、そもそもビジネスとして一つも面白くない(笑)。ですから、新たなビジネスモデルを作って行きたいという思いが強くありました。
 33年前に二代目を継いだ時は餃子専門店だけでしたが、それだけでは継続して成長するイメージをどうしても持てませんでした。事業ドメインを餃子屋から「食」全般に移していきまして、ハンバーガー屋やチャーハン屋、ベーカリーなど、とにかく幅を広げていきました。競合とぶつかることなく、自分達が伸び伸びと成長していけるフィールドを探しました。「大きくなりたい」というモチベーションだけでは、そこには常に争いが生じ、体力をすり減らしていくだけです。フィールドを少し変えていくだけで、新しいニッチができます。そこを突き詰めていった結果、現在の成長があります。「イートアンド」という食品メーカーを中心とした外食と中食、あるいは食の外部化というものに総てリーチできる非常にめずらしいビジネスモデルが出来上がりました。

藤平:なんだか、呼吸動作の稽古みたいですね(笑)。相手に手首を力いっぱい持たれた時、力任せに動かそうとしても、ぶつかってしまい身動きが取れなくなります。ましてや、自分より力の強い相手や身体の大きい相手には絶対に敵いません。しかし、相手と争うことなく、自分が動けるところから動けば自由に動くことが出来ます。文野さんは、始めから「ぶつかる場所」をつくらなかったということですね。

文野:間違い無くそこは意識していましたね。

藤平:心身統一合氣道を学ばれて、今どのようなことをお感じになりますか。

文野:様々な業種で500店舗にまでなりましたが、今でも年間で10店舗くらいは失敗をします。40店増えたら10店は減る計算です。それでも、差し引きでは純増してきましたので現在の店舗数になったわけですが、これだけ経験を積んで来ているのに、いまだになぜ「繁盛するお店」「普通のお店」「赤字のお店」が出来るのかよく分からないときがあります。フランチャイズでも、経営者さんはみな必死に努力されているのに、成果に繋がるときも繋がらないときもある。そもそも経営は「正解が無いこと」をひたすら進めていくわけですが、心身統一合氣道の稽古で「氣」を教わっていると、何となく腑に落ちるところがあるのです。

藤平:「腑に落ちる」とはどのような感じですか。

文野:例えば、ピーター・ドラッガーの本を読むと、自分がしてきたことで「なぜ成功したのか」「なぜ失敗したのか」分からなかったところが、腑に落ちる部分が出てきます。
 心身統一合氣道の稽古にもそのようなところがあるということです。「ああ!こういうことだったのだ」と腑に落ちる。私にとって宝物で、本当に有り難いです。実践できるかはまた別の話ですが(笑)。少なくともこれからは失敗が減っていくような氣がします。

藤平:文野さんは会社を継がれる三年前には独立してご商売をなさっていたそうですね。様々なフランチャイズにも自ら加盟して学ばれたとお聞きしました。

文野:フランチャイズというシステムは実に合理的です。他者の成功のノウハウをお金で買えるわけですし、ランニングコストはかかっても利益が上がっていくわけですから。その良いところを自分の会社に持って行くことが、本当の意味でのフランチャイズシステムの醍醐味であり、究極のメリットなのです。

藤平:フランチャイズというと「すでにあるシステムを利用して利益を上げる」ことが目的だと思っていましたが、システムを学ぶことそのものに意味があるわけですね。

文野:アメリカでは当たり前の考え方なのですが、日本の場合、ハンバーガー屋ならハンバーガーを焼くことだけを教えることが多いのです。そうでなくて、実はその裏にあるシステム、成功のノウハウを学ぶことがフランチャイズの本当の対価なのです。いまは餃子屋としてたくさんのフランチャイジーを持っているので、オーナーの皆さんによく「餃子屋のブランドを使うだけでなく、その裏にある当社の戦略やフィロソフィー、本当のノウハウを学ばないとあきまへんで」と話をしています。

藤平:なるほど。フランチャイズとは本来、そこで学ぶ人々を成功に導くことを目的とするシステムなのですね。

文野:そういうことです。オーナーの皆さんには心から成功してもらいたいのです。

より大きいフィールドに移る

藤平:文野さんは後継者を育成されて、社長職をお譲りになりましたが、今後も最前線でお仕事をされるわけですか。

文野:勿論です。社長職は譲りましたが、会社の代表取締役は務めますし、社内の役割分担が変わっただけです。会社の執行は新しい社長にお任せして、自分は中期ビジョンで、今の倍ぐらいの規模の山を目指しています。これまでの40年の成長を次の10年でやろうと考えています。単純計算で4倍のスピードであり、それを達成するには今の成長路線に別のプラス成長が加わっていく必要があります。アライアンス、M&A、業務提携も含め、自分達の運営資金以外のお金の使い方を僕が担当し、目標に到達していきます。

藤平:より大きいフィールドに移ったということですね。

文野:そうです。これまでは大阪湾にいたわけですが、よく考えたら東証一部に来たわけで、いまは太平洋にいるようなものです。そこは荒波感が違います。自分達としては頑張っているつもりでも、自分達のペースで成長しているだけでは「蛸壺にこもっている」様なもので、他社がもっと努力していることを知らないのです。

藤平:何だか耳が痛いお話ですね(笑)。

文野:そんなわけで、青井博幸さんにご協力を頂きながら、さらに大きな戦略を立てています。人からはよく「59歳で社長交代とはえらく早いご隠居ですね」と言われるのですが、そんなつもりはさらさらなくて。ひと仕事で10年はかかりますから、60歳からスタートしなければ「下手したらヤバいな」と思い、ちょっとでも早くと59歳からスタートしました(笑)。

藤平:文野さんがご一緒に稽古なさっているホリプロの創業者の堀威夫さんは「人生三毛作」と仰って、「60歳まで」「60歳から80歳」「80歳から」とそれぞれの時期に新たなフィールドでチャレンジなさっています。三毛作目となるタイミングで、毎週、心身統一合氣道の稽古を始められました。85歳になられた今も稽古を続けておられます。

文野:まさに理想です(笑)。会社は来年50周年という節目を迎えます。時代は変わり、人手不足含め、外食産業が厳しい状況の中で、次世代モデルの飲食店を発表しようと思っています。人手がかからず、これまでとは違った体験型で、居心地が良く、フランチャイズビジネスとして多くの皆さんが「やってみたい!」と思って頂けるものを準備しています。

藤平:今後の展開が楽しみですね。本日はご多用のなか、貴重なお話を有り難うございます。

『心身統一合氣道会 会報』(第24号/2018年7月発行)に掲載

「どこまでいっても追いつけない人」と巡り会うということは、すごいことだと思うのです。

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当会では「合気道」の表記について、漢字の「気」を「氣」と書いています。
これは“「氣」とは八方に無限に広がって出るものである”という考えにもとづいています。


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