特別対談

帯津良一先生にお話をお聞きしました。

藤平信一 心身統一合氣道会 会長

東京工業大学 生命理工学部 卒業
慶應義塾大学 非常勤講師・特選塾員
幼少から藤平光一(合氣道十段)より指導を受け、心身統一合氣道を身に付ける。心身統一合氣道の継承者として、国内外で心身統一合氣道を指導・普及している。

帯津良一 先生

帯津三敬病院 名誉院長 83歳現役医師
日本ホリスティック医学協会 名誉会長
日本ホメオパシー医学会 理事長


「ときめき」が治療に影響を与えている

藤平信一会長(以下、藤平):帯津先生は先代の藤平光一先生にお会いになったことがあるとお聞きしました。

帯津良一先生(以下、帯津):お父様(藤平光一先生)の講演を聞いたことがあるのですよ。確か、新宿駅近くの広い会場でしたね。ですから、お父様のことはよく覚えています。亡くなられてどのくらいになりますか。

藤平:2011年に逝去しましたので、間もなく8年です。91歳でした。

帯津:それはご立派ですね。

藤平:帯津先生は、学生時代から武道を学ばれていたのですね。

帯津:東大時代は空手部にいました。剣道部、柔道部、合気道部と道場を半々に使っていたので、色々な仲間がいますよ。その後は、現在に至るまで気功を続けています。

藤平:帯津先生の病院では、患者さんの治療で様々な取り組みをなさっているとお聞きしました。気功もその一つですね。

帯津:そうです。ただし、「治療」というものは、マニュアル化して患者さんに一方的に押しつけることはできません。まずは患者さん本人と私で治療に関する戦略会議をするのです。

藤平:どのようなことを話し合われるのですか。

帯津:戦略会議にはある程度の順序があって、まずは日々の生活における「心の持ち様」から始めます。多くの病院は治療法から始めるところ、うちの病院ではまず「ときめき」について話をするのです(笑)。

藤平:「ときめき」が治療に影響を与えているということでしょうか。

帯津:「ときめき」は免疫力や自然治癒力に直接働きかけています。
 アンリ・ベルクソンの講演録に「生命の躍動で命があふれ出る。我々は歓喜に包まれる。その歓喜はただの快楽ではない。必ず創造を伴っている。何を創造するのか。自己の力をもって、自己を創造するのである」と書かれています。
 なるほど、喜びの中に自己実現の道が内蔵されているとすれば、免疫にも自然治癒にも良いだろうと思ったのです。

藤平:患者さんには具体的にどのようにお伝えになるのですか。

帯津:「ときめきのチャンスを絶対ものにして欲しい」と伝えます。
 入院時に比較的にお元氣で、私の本を良く読んでいるような患者さんにこう伝えると、「分かっています!」と頼もしい答えが返ってきます。
 他方で、他の大きな病院で「もう治療法はありません」と緩和ケア病棟をすすめられた患者さんだと、「ときめくなんて無理ですよ。あと数ヶ月と余命宣告をされた人間が、ときめいていられるはずがありません!」と言うのです。
 それはそうなのですけれど、私は「チャンスは必ず来るから、ものにしてみませんか」と伝えます。多くの人は「分かりました。でも、どうして良いか分からないので、先生がどういうときにときめくのか教えて下さい」と言います。ですから、その患者さんの年齢や病状に最も良いものを提案するようにしています。

藤平:それが戦略会議の始まりですね。その後も試行錯誤をなさるのでしょうか。

帯津:そうです。一つの取り組みを実際にやってみて、症状が維持されるか、あるいは良くなる氣配があればそのまま続けていきます。そうでなく、悪くなる氣配があれば戦略を練り直すのです。

藤平:ときめきの次のステップとして、患者さんと何を話し合われるのですか。

帯津:食事についてです。「食事について自分の理念を築いて欲しい」と。「どんなものが身体に良いか」というよりも、「自分はこれで行く」というものを決めてもらいます。
 同時に、身体を動かすことも伝えます。気功など様々な種類の中から好きなものを選んで、毎日できるように「自分に合ったものを覚えて欲しい」と。単なる運動というよりも、「氣」の養生です。
 そして最後の段階で、西洋医学で何ができるか、中国医学で何ができるかを決めていくわけです。

藤平:心身統一合氣道は「心が身体を動かす」という原理に基づいて稽古します。心の状態が身体の状態に大きな影響を与えていることを、技の稽古を通じて理解し、心の持ち様を会得していきます。心が消極的になると技はまったく出来なくなります。心の持ち様がいかに重要か、私たちも日々感じております。

帯津:心の持つ力は絶大ですから。

藤平:帯津先生ご自身もときめいていらっしゃるわけですね(笑)。

帯津:たいていは、ときめいていますよ(笑)。新聞や雑誌などのインタビューで健康について聞かれると「目には青葉、朝の気功に、夜は酒」と答えています。初鰹に代表される旬のものを戴いて、朝は患者さんと気功をやって、夜は酒を飲む、これが私の健康法だと。お酒もね、一人で黙々と飲むのも悪くは無いし、久しぶりの仲間と会って飲むのも良い。でも、憎からず思っている女性と飲むときなどは、一番ときめいています(笑)。

藤平:なるほど(笑)。
 ある高齢の女性は、脚を悪くしてからまったく外出しなくなり、すっかり元氣がなくなってしまいました。心配したご家族が外出の機会を半ば強引につくったところ、全くしなくなっていたお化粧をするようになったそうです。その前後を私は存じ上げているのですが、同じ方とは思えないほど若く見えました。これも心の持ち様であり、「ときめき」の一つということですね。

帯津:おばあちゃんになっても魅力のある人はたくさんいますし、男性、女性に関わらず、心の持ち様がやはり最も大事だと思うのです。

医療とは心から寄り添うこと

藤平:話題は変わりますが、帯津先生のご著書の中に、「明るく前向きであることは必ずしも重要ではない」と書かれていますが…。

帯津:これはね、始めは私も「明るく前向きが良い」と信じ込んでいたのです。私はもともと外科の医者で、食道がんの手術を専門にしていました。いかに良い手術をするかということだけが頭にありました。良い手術をすれば患者さんの為になる。良い手術とは、手術時間が短く、出血量が少なく、術後の合併症が少なく、早く元氣になられて、再発もしない。これが最高なのです。完璧はないにしても、100点に近づこうと努力していたものですから、患者さんの「心」までは目を向けなかったのです。医者としては半人前でしたね。
 それが、中国医学を勉強するようになり、さらにホリスティック医学に進んでいく中で、患者さんの顔をじっと見る時間が増えました。そうしたら心のことが少し分かってきて、「明るく前向きな人」の方が病状の推移が良いと思い、ホリスティック医学協会の心療内科のメンバーに話をして、明るく前向きな心を維持する心理療法チームを作って始めてもらったのです。

藤平:それがうまくいかなかった、ということでしょうか。

帯津:ええ。病棟を回診してみて、すぐに間違いだと分かりました。
 要するに、病状が良いから明るいわけで、明るいから病状が良いわけではないのです。上手くいけば誰だって明るい。よく眺めてみれば、そもそも人間は明るく前向きにはできていないのではないか。これは「世を忍ぶ仮の姿だ」と(笑)。 
 人間を深く観察していくと、人間の本性は「哀しみ」ではないかと思うのです。山田太一さんの『生きるかなしみ』という本や、岩波書店の会長だった小林勇さんのエッセイ集『人はさびしき』からも、随分と影響を受けました。

藤平:人間が本来持つ「哀しみ」に蓋をして、明るく前向きに装っている。これはプラス思考の履き違えであり、誰もが陥りやすいところですね。

帯津:私はお蕎麦屋さんで、まだ日の高いうちに一人で一杯やるんです。すると、たいていは一人で一杯飲んでいるサラリーマン風の人がいます。仕事でどこか外へ出て、会社へ帰るか家へ帰るかの間に一息ついているのでしょう。そういう人々は皆、黙々と食べたり飲んだりしているのですが、肩の辺りに哀愁が漂っている。それをみると「人間の本性は哀しみだな」と分かりますね。
 自分の「哀しみ」を慈しみ、人の「哀しみ」を敬い合って生きようじゃないか。そうすると医療に本来あるべき温もりが戻ってくる。私の病院も、一頃に比べると随分違うと思いますが、まだ十分じゃない。もっともっと温もりがあって良いと考えてます。今は、「哀しみ」を基調にして患者さんを診て、患者さんにも私の生きる「哀しみ」をちょっと敬ってくれと言っています。

藤平:「哀しみ」を理解するからこそ、慈しみ、敬うことが出来る。そして患者さんに寄り添った医療になるということですね。温もりとは、寄り添う中で生まれてくるものでしょうか。

帯津:そうです。最も単純に言えば、医療とは心から寄り添うことであり、治したり癒したりすることは一つのテクニックです。大事なのは相手の生きる「哀しみ」を敬い、そっと寄り添うということだと思っています。
 怒られそうですが、私はね、患者さんにときどき「明るく前向きな人を良く見てみると、つまらない人が多い」と言うのです(笑)。

今日が最後だと思って生きる

藤平:ご著書の中で、がんの患者さんに寄り添うには、ご自身が日々「今日が最後」と決めて初めて出来るとお書きになっています。

帯津:はい。やはり患者さんは死の恐怖というのを誰でも持っていますよね。人間、死への恐怖がない人はいません。ある程度は宿命的なことですが、がんの患者さんは期限で切られた感じになりますから、死に対する思いはかなり重くなってくるわけです。
 それを和らげないと自然治癒力も免疫力も上がらないだろうから、いかに和らげるかを試行錯誤している中で、富山の詩人・青木新門さんの本『納棺夫日記』に出会いました。死に直面して不安におののく人を癒すことができるのは、その患者さんよりも一歩でも二歩でも死に近いところに立つことができる人だと書いてありました。それで私はピンときたのです。

藤平:「死に近いところ」とはどういうことでしょうか。

帯津:私の病院は99ベッドあり、がん患者さんが80%くらいですから、一週間に1人か2人は亡くなる方が出て来ます。その人達よりも死に近いところに立つ為には、自分が今日は最後だと思って生きないといけない。
 そう思ったのが、70歳にかかってきた頃のことです。朝は「今日が最後なのだから、しっかり一日やろう」と思って起きる訳です。夜は酒を飲んで寝ますから、それこそ「最後の晩餐」です。この年になるとそう不自然なことではなく、氣を付けてみると周囲に同じ様に考える方もいらっしゃいます。
 特にそのことに最初に感銘を受けたのは、映画評論家の淀川長治さんの『生死半々』で、冒頭に、今日が最後だと思って生きると一日一日が違って、輝いてくる。と書かれています。

藤平:日々、新しい一日を迎えているという感じですか。

帯津:ええ、そうです。昨日、死ぬはずだったのが、今日も生きていたんだ!
 それでまた一日をしっかり生きようと思うのです。

藤平:もう一つお尋ねしたいのが「場」についてです。
 最も大きい「場」は天地自然であり、少し小さな「場」が社会ですね。会社や学校が「場」ならば、自分自身の体内のメカニズムも「場」であり、素粒子が働くのもまた「場」ですね。
 帯津先生がお考えになる良い「場」とは何でしょうか。

帯津:良い「場」とは、身を置くことで内なる生命場が高まる場です。生命場が高まると同時にその「場」も高まってくる。良い循環が生まれるのです。

藤平:「場」は、そこに存在する総ての人で構成されていて、相互に感応しているということですね。

帯津:そうです。皆さん、部外者ではなく当事者なのです。私はよく患者さんに「あなたも当事者なのだから、誰が悪い、周囲が悪いなどと言っていないで、一緒に場を良くする努力をしましょう。仲間の生命場のことも思いやり、皆で良い場に身をおきましょう。ただし、どうしてもダメな時は別の場を求めても良いのですよ」と言っています。

藤平:「場」は一つではないですね。

帯津:だから、「自分の命のエネルギーを高めながら成長していく」という終わりなき自己実現の道を辿るということも良いのだけど、社会の一員として、様々な人との付き合いも大事なのです。

藤平:お付き合いで大事にされていることはありますか。

帯津:付き合いに関していえば、「いき」な生き方を心がけています。「いき」については、九鬼周造先生の『「いき」の構造』という本に「いき」とは「垢抜して(諦)、張のある(意気地)、色っぽさ(媚態)」と書かれています。

藤平:詳しく教えて頂けますか。

帯津:一つ目の「垢抜け」とは垢がむけてさっぱりしているという意味ですが、諦めるという字が括弧してある。これは、どんなに魅力があっても最後まで追求せず、程好いところで諦めろということだと思います。しかも諦めて中止してしまうのではなく、好位置をキープして楽しめということ。

藤平:「良い加減」を知るということですね。

帯津:そうですね。二つ目の「張りのある(意気地)」とは、自分の道を一歩一歩進んでいく氣力のことでしょう。しかし、自分を追い越す者が現れたら道を譲る。つまり、謙譲の美徳も伴っている。「どうぞお先へ。私はこのまま歩んで行きますから」という心意氣だと思います。

藤平:他者との比較ではなく、自分の道を歩んでいるということでしょうか。氣になるのが最後の「色っぽさ」です(笑)。

帯津:「色っぽさ(媚態)」というのは、簡単に言えば性的魅力です。生物の根源といっても良いものです。
 熱力学には「エントロピー」という用語があります。エントロピーが増大すると秩序が乱れます。生命体には、それとは逆の作用で秩序を形成するメカニズムがあり、エントロピーが減少します。大事なことは、命のエネルギーがあふれ出る時に「エントロピーを捨てる」ことではないかと思います。身体の中にエントロピーがたまると、秩序が乱れるから良くないのです。
 諦めることを知っていて、人に譲ることを知っていて、自分も多いに喜んで周囲の人に自分の命のエネルギーを味わってもらう、という生き方が理想だと思うのです。

藤平:それは「いき」であると同時に、「氣を滞らせない秘訣」と理解しました。83歳の帯津先生が現在も若い理由の一端を知った氣がいたします。
 本日は貴重なお話を有り難うございます。

『心身統一合氣道会 会報』(第27号/2019年4月発行)に掲載

心の持つ力は絶大ですから。

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これは“「氣」とは八方に無限に広がって出るものである”という考えにもとづいています。


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