特別対談

田原総一朗様にお話をお聞きしました。

藤平信一 心身統一合氣道会 会長

東京工業大学 生命理工学部 卒業
慶應義塾大学 非常勤講師・特選塾員
幼少から藤平光一(合氣道十段)より指導を受け、心身統一合氣道を身に付ける。心身統一合氣道の継承者として、国内外で心身統一合氣道を指導・普及している。

田原総一朗 様

ジャーナリスト


ジャーナリストの田原総一朗様と野球評論家の広岡達朗様の対談が収録された『私たちの「遺訓」』(ワニ・プラス)が出版されました。広岡様の人生に大きな影響を与えた藤平光一先生の教えをぜひ田原様にも体験頂きたいということで、対談初回は心身統一合氣道会の本部道場(半蔵門)で行われました。藤平信一会長より立ち姿や臍下の一点などをお伝えしました。これをご縁に、田原総一朗様に教育の観点からお話をお聞きしました。

本氣を引き出す

藤平信一会長(以下、藤平):広岡さんとの対談を終えていかがでしたか。

田原総一朗様(以下、田原):「真剣勝負」というテーマで広岡さんと話をできて面白かったですね。広岡さんは野球で真剣勝負をして来られた。僕もジャーナリズムで真剣勝負をして来た。
 広岡さんが合氣道を始めたきっかけが聞けたことも面白かった。「迷い」というものをなくす為にどうすれば良いか。「迷い」があったからこそ合氣道を学んだと言われていたのが印象深かったですね。

藤平:議論や討論においても田原さんは真剣勝負をなさっています。同時に、そこにいる人々の本氣を引き出しているわけですね。

田原:そう、真剣勝負。僕は間違っていることは間違っているとはっきり言うし、政治家の本音が出るまで迫っていく。実は、今までに総理大臣を二人失脚させているのですよ(笑)。

藤平:どなたかお聞きしても良いですか(笑)。

田原:宮澤喜一さんと橋本龍太郎さん。別に倒そうと思ってやったことではなくて、真剣勝負でやり取りしていたら、宮澤さんの場合は僕と約束したことが出来なかった。橋本さんの場合は、僕が色々聞いていった結果、最後に絶句してしまった。それで選挙に負けた。

藤平:田原さんはジャーナリストとして世界を回ってこられた中で、その人が本氣で話をしているのか、あるいは上辺で話をしているのかを見抜いてこられたわけですね。おそらく、その人の発している言葉よりも、非言語、つまりその人が発しているものをみておられたのではないでしょうか。

田原:そう、それが表れるのがテレビの面白いところです。活字だとね、言葉の意味は文字通りにしか伝わりませんが、テレビだと「言葉」は表現のone of themでしかない。例えば、日本語では「はい」と言っても本当は「いいえ」の時がある。そこが活字だと「はい」と言えば「はい」にしかならない。だから、僕は「あんた、一体どっちだ?」「はいと言いながら違うこと言っているじゃないか!」と問い詰める。

藤平:田原さんが今までお会いになった方で、「この人は本氣だな」と心から感じた方はいらっしゃいますか。

田原:それは、田中角栄でしょう。彼は本音で話をするから面白い。実は、田中さんが立花隆さんの論文で失脚した後、6年経ってはじめて文藝春秋で僕のインタビューに答えることになった。13時からやることになっていて、僕は30分前には着いていた。そしたら13時になっても13時半になっても一向に始まらない。それで、秘書に「何をしているのだ、一体?」と尋ねると、前日に「田原総一朗についての資料を一貫目(=3.75kg)集めろ」と言って、朝からずっと読んでいるので待ってくれ、とのこと。インタビューするのは僕ですよ(笑)。彼はインタビュアーについての資料を集められるだけ集めて読んでいた。

藤平:なるほど「本氣」の方だったのですね。

田原:あとは中曽根康弘と小泉純一郎。
 中曽根さんが総理大臣の時に、彼は若い頃から憲法改正と言っていたのに、総理大臣になってからすっかり言わなくなった。何故かと聞いたら、「今はそれどころではない」と答えた。当時、レーガンというアメリカの大統領がいて、日本に対して「グローバル化だ!」「自由化しろ!」と言ってきて、「日米経済戦略」を中曽根さんは日本の生き残りをかけて必死にやらないといけなかった。
 小泉さんなんかは、ある時、政調会長(当時)の中川秀直さんから連絡がきて、「田原さん、飯食おう」というので出掛けて行った。すると「今、実は小泉が総裁選に出馬しようとしている。前の二回は惨敗した。今度負けたら、もう政治生命が終わりだ。田原さんはどう思う?」と聞いてくる。僕は半ば冗談で「今までの総理大臣は、田中派の人間か、田中派が全面応援した人間がなっている。もし小泉が田中派と全面戦争して、田中派をぶっ潰すと本氣で言うのなら僕が支持しても良いよ。でもね、それをやったら暗殺される可能性もあるよ」と中川さんに伝えると、「本当に支持してくれるのか。ちょっと待って!すぐ下に小泉本人を呼んでいるから本人の目の前で言ってくれ」と目の前に連れてきた。小泉さんは「殺されても構わない。本氣でぶっ潰す」と言った。彼は言葉の天才だと思うが、「田中派をぶっ潰す!」と言っても一般の人には分からないので、選挙では「自民党をぶっ潰す!」と言い換えて選挙に勝った。

藤平:それだけの覚悟をお持ちだったのですね。ご本人が待機していたのも、「本氣」で田原さんにお願いしたかったわけですね。

田原:彼が面白いのはね、例えばその後の一、二年は景氣が良くならなかった。それで経団連や経済同友会から「経済政策を提言しても小泉さんは全く言うことを聞かない。あの男、耳は多分聞こえているのだろうけど、理解力が無いのではないか。田原さん、本人に何とか言ってくれ」と頼まれた。本人に確認すると、小泉さんは「田原さん、その通りだ」と言う。当時、小泉さんの周りには官僚たちがいて、だいたいは東大卒でみな自分は頭が良いと思っている。加えて、日本の省庁は縦割りだからバラバラ、例えば経済産業省の官僚と財務省の官僚、防衛省の官僚では言うことが全く違う。小泉さんは「まともに全部を聞いているとノイローゼになってしまう。これまでの総理大臣は皆、半分ノイローゼになりながらやっていたと思う。俺は頭が悪いし、ノイローゼになるのは嫌だから、周りの言うことは一切聞かない。小泉は人の言うことは一切聞かない男だと皆に言ってくれ」と僕に言うのです(笑)。

藤平:本当に面白いですね(笑)。本氣で自分の頭で考えようとしたら、人のいうことに振り回されるわけにはいかないでしょうし、人の意見を折衷しようなどしたらリーダーとして大事な判断を誤ります。私の出身校である東京工業大学の教授と先日話をする機会がありました。近年では「考えをまとめなさい」「感じたことを書きなさい」と課題を出すと、全員からほぼ同じ答えが返ってくるのだそうです。自分の頭で考えた、自分が本当に感じたことではなく、常に「正解らしきもの」を探している、と。私が学生であった頃から「自分の頭で考える能力が足りない」と指摘されていましたが、さらにその傾向が強まっているようです。

田原:宮澤喜一さんが面白いことを言っていましたよ。先進国首脳会議に総理大臣が行きますね。それから、G7に財務大臣が行きますね。そういう国際会議の場では日本の政治家の発言が余り無い、と。
 「何で発言が無いのか。英語が出来ないから?」と聞くと、宮澤さんは違うという。英語については通訳がいる訳ですから。「だったら、なぜ?」と尋ねると、実は日本の教育そのものが間違っている、と。日本の教育は、小学校・中学校・高校と教師が「正解のある問題」を解かせる教育をしている。正解を答えないと怒られる。ところが、正解のある問題なんて予習してくれば簡単。先進国首脳会議やG7の課題には正解なんて無いから、全く答えられないのだというのです。
 欧米の教育では、特に大学では正解のない問題に取り組ませる。正解が無い訳だから、生徒は自分の頭で考えて答える。それぞれが違う考えを述べるから、そこからディスカッションになる。いかに生徒の想像力をかき立てるか。いかにディスカッションの能力を鍛えるか。教育そのものが違うわけです。

藤平:すると、今に始まったことではなくて、戦後教育がずっと積み重ねたものの結果が現状ということですね。

田原:しかも、どんどん悪くなっています。先日、日本経済新聞に世界大学ランキングが出ていて吃驚したのですが、10年くらい前までは東大や京大は上位にあったのに、今は東京大学が42位、京都大学が65位くらい。中国やシンガポールの大学が、日本より上に位置しています。

藤平:学校と言えば、先日、昭和医療技術専門学校という医療系の専門学校へ講義に行きました。この学校の教育はユニークで、国家資格の取得に直接関係ないような講義をたくさん取り入れていて、一学年80人いる学生にその都度、講義の感想文を提出させます。これが面白くて、全員感想が違うのです。自分が感じたこと、自分の頭で考えたことを決められた時間でしっかり表現し、さらに他の学生の発言にしっかり耳を傾けてディスカッションもしています。国立大学で出来ていないことが専門学校でしっかりできる。やはり教育なのだと思います。

田原:慶應義塾大学に井手英策さんという教授がいるでしょう。財政専門で、彼は面白い。あと、若くして筑波大学学長補佐をしている落合陽一さんも面白い。
 日本の大学教育は本当に遅れています。今から十数年前に早稲田大学の総長から相談を受けて、慶應は藤沢ができてから話題になるけど早稲田はならない、どうすればいいだろうか、と相談されました。僕は「日本の大学は完全な縦割りで遅れている。早稲田も、理工・政経など分野が色々あっても、理工学部の生徒は理工学部の授業しか受けられない。それをやめて、早稲田の全学部の学生が受けられる授業を作ろう」と言って、大隈塾というのを立ち上げました。大学の教授は一切呼ばず、修羅場を乗り越えて来た人間を講師に呼ぼうと決めました。
 でもね、1学期は質問など出ません。正解のある問題を答える授業しか受けていないから。2学期になってやっと質問が出て来る。3学期になるとやっと討論ができるようになります。

藤平:基礎が出来るのに一年はかかるのですね。何を学ぶにも土台が必要で、日本という国は、今一度、教育という原点に戻る必要がありますね。

田原:御会は素晴らしい活動をされているわけですから、ぜひ積極的に若い人の育成にも取り組んで行って下さい。

藤平:有り難うございます。ところで、慶應でも福澤諭吉記念文明塾という学び場があります。先日、4時間ほど講義をして参りました。

田原:そうでしたか。でも、大隈塾の方が先に始まったのですよ(笑)。

藤平:そのようですね(笑)。本日は貴重なお話を有り難うございます。

『心身統一合氣道会 会報』(第25号/2018年10月発行)に掲載

真剣勝負。僕は間違っていることは間違っているとはっきり言う

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これは“「氣」とは八方に無限に広がって出るものである”という考えにもとづいています。


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