特別対談

山藤賢様にお話しをお聞きしました。

藤平信一 心身統一合氣道会 会長

東京工業大学 生命理工学部 卒業
慶應義塾大学 非常勤講師・特選塾員
幼少から藤平光一(合氣道十段)より指導を受け、心身統一合氣道を身に付ける。心身統一合氣道の継承者として、国内外で心身統一合氣道を指導・普及している。

山藤賢 様

医療法人社団昭和育英会理事長
昭和医療技術専門学校校長
医学博士

昭和大学医学部、同大学院医学研究科外科系整形外科学修了。現在は現役の臨床医として患者と向き合いつつ、医療法人社団昭和育英会理事長として医療機関を複数経営。昭和医療技術専門学校では校長を務め、若き医療人の育成に力を注いでいる。また、J リーグやなでしこジャパン(サッカー日本女子代表)のチームドクター(オリンピック、ワールドカップなどに帯同)を歴任し、東京都サッカー協会医学委員長(現)を務めるなど、スポーツドクターとしても活躍している。人材育成に関しても、小学生から社会人までを対象に幅広い範囲で講演を多数おこなっている。


「部分」ではなく「全体」で捉える

藤平信一会長(以下、藤平):山藤さんは「なでしこジャパン」のチームドクターとして活動され、現在は医療経営者、現役の臨床医としても患者さんと向き合いつつ、昭和医療技術専門学校の学校長としても学生の教育に携わっておられます。
山藤さんはどのようなご縁で心身統一合氣道をお知りになったのでしょうか。

山藤賢様(以下、山藤):前野隆司教授(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科)が書かれた『無意識の整え方』を拝読したのがご縁です。会長と同じく、この本で前野先生と対談した山田博さんと以前から懇意にさせて頂いていました。会長と前野先生の対談が余りに面白くて、押しかけてしまいました(笑)。

藤平:そうでしたか(笑)。
「なでしこジャパン」のチームドクターは、どの様なご縁でなられたのですか。

山藤:もともと私は整形外科医として病院に勤務したのですが、サッカー経験があったことからチームドクターを頼まれることがありました。最初はJリーグのチームドクターから男子の各世代の代表チームなどに帯同し、なでしこジャパンから依頼を頂きました。

藤平:そこで、なでしこジャパン前監督の佐々木則夫さんとのご縁があったわけですね。先日、佐々木さんに心身統一合氣道をご体験頂きましたが、氣さくなお人柄がとても印象的でした。山藤さんにとって、どのような監督さんでしたか。


指導を受ける佐々木さん

山藤:のりさん(佐々木則夫さん)も先日の体験を凄く喜んでいました。のりさんからは多くのことを学びました。最初の出会いは、まだのりさんがコーチのときでした。本当に氣さくで、人との距離の縮め方が上手でしたね。メディカルルームで選手の情報をいろいろと聞かれました。

藤平:選手のことを深く理解したかったのですね。

山藤:のりさんが監督に就任するときは、私はタイミングとしてチームドクターを退くことを考えていました。チームの状況も悪かったのですが、のりさんからは「さんちゃん、僕が監督やるからチームドクターをやってくれないか」と頼まれ、その後のオリンピックまで務めることにしたのです。のりさんは選手のこともコーチ時代から良く見ているので、いざ監督になったときに、澤選手にポジションチェンジをお願いしたり、キャプテンをお願いしたりしたときも「チームが勝つためなら」と快く受け入れられていました。

藤平:なでしこ時代、山藤さんにとって最も印象に残ったことは何ですか。

山藤:「監督一人が変わることによってチーム全体が変わる」ことです。これは後に私が医療経営・学校経営をするにあたって大きな財産となりました。のりさんが監督になってからは、コーチを一人補充しただけで、メンバーやスタッフを一人も入れ替えませんでした。正直いって私は「アジアで一番にもなれなかったチームが、同じメンバーと同じスタッフで世界一になれるはずはない」と思っていたのですが(笑)。

藤平:普通はそうですよね(笑)。

山藤:監督が交代して「誰も変えなくていい」と言ったのはのりさんくらいでしょう。「さんちゃん、大丈夫。これで世界一になれるから」と言っていました。監督には自分で総て指示を出す人が多いのですが、のりさんはコーチやスタッフ自身にさせます。選手に話をするときも、最も大事なことだけはのりさん自身で話しますが、ほかは総て人に任せる。とても懐が深い人だとは思いましたが、これで組織がうまくいくとは思っていませんでした。結果として本当に世界一になりました。

藤平:澤選手の話が出ましたが、山藤さんから見てどのような選手でしたか。

山藤:とても印象に残った会話があって、あるとき澤選手に「どういう感じでプレーしているの?」と聞いたところ、「私は、どこにボールが来てどこにボールを出したら良いかは、鳥のように上から見えてるよ」と言うのです。普通の選手はボールに執着してしまい周りのことが見えなくなるのに、澤選手は違うんですね。

藤平:まさに「氣が通っている」わけですね。

山藤:そうです。氣が通っている。ワールドカップの時の最後のゴールも「なぜかは分からないけど、あそこしか無いと思った」って言うんですよね。

藤平:先ほどの佐々木さんの話と本質的に繋がっていますね。チーム全体として力を発揮するには、チームの中で氣が通っていなければいけない。選手として良いプレーをするには、周囲に氣が通っていなければいけない。どちらも「部分」ではなく「全体」の話をしているように感じます。

山藤:調子の悪い選手を切るというのは「悪いところは取り除けばいい」という考え方で、「部分」でとらえた話です。実際に、のりさんは誰も切らなかった。チームというものを「部分」ではなく「全体」で捉えていたのだと思います。

藤平:その考えは山藤さんが経営する学校にも活かされていますね。

「自律」と「他律」

藤平:先日、山藤さんの著書『社会人になるということ』を拝読しました。素晴らしい内容でした。

山藤:有り難うございます。私は「社会人になること=自立すること」と考えています。そして「自立」の根底には「自律」があると捉えています。

藤平:ひとことで「律する」といっても、「自律」と「他律」がありますね。法律や規則を守ることは重要ですが、他律の教育に偏ると、道義的に悪いことをしているのに「法的には問題ない」と開き直る人間が育ってしまいます。自らを律すること、すなわち自律を教えることが、教育においては極めて重要ですね。
山藤さんの学校では「自律」をどの様に養っているのでしょうか。

山藤:私は学生の本分として「出席」「提出物」「挨拶」「ゴミ拾い」「素直であること」とおいています。これは規律というよりも「人としてのあり方」として行っています。私や職員も例外ではありません。こういったことを学生時代にしっかりやって社会に出れば、職場や社会から本当に必要とされる人材になると考えています。

藤平:社会人としての基本ですね。自分を律することが出来なければ、いくら能力が高くても信頼されません。卒業生はそれが実体験で分かるので感謝していると思いますが、入学したばかりの学生は「何でこんなにうるさいことを言うのか」と反発しませんか。

山藤:勿論、あります(笑)。ただ、目の前のことだけでなく長いスパンで物事を考えるようにしているので、いずれ学生が「あのお陰で今がある」と思えるために、嫌な顔をされるのを恐れずに辛抱強く伝えています。

藤平:私も若手の指導者を多く育てていますが、山藤さんと同じように習慣づくまで辛抱強く接するようにしています。ときに本人にとって嫌なことも伝えないといけませんが、いつか必ずこの子の為になると心を決めて行っています。イライラするときもあるのですが、「心を静める」ことを教えているのですから、自分を律しています(笑)。

山藤:会長にもそういうことがあるのですね。何だかホッとします(笑)。

藤平:山藤さんの学校は国家試験の合格率が全国トップレベルです。さらに、学業だけではなく「人としていかにあるべきか」も徹底的に教育しています。しかも、大部分の学生が卒業式で皆勤賞・無遅刻・無欠席・無早退で表彰されると聞いています。しかし、世の中には「人としてのあり方」と「学業」は関係ないと考える人もいます。

山藤:ある時、他の大学教育者から「挨拶などは社会人になってから教えれば良い。学生時代はいらない」と言われたことがあります。でも私は、それなら教育そのものが要らないのではないかと思います。

藤平:確かにそうですね。

山藤:臨床検査技師という医療職で全国平均70%台の合格率の国家試験ですが、この4年間、私の学校では合格率が100%です。さらに、最高学年である3年生からは一人も留年生を出していません。多くの学校では合格率を上げるために受からなそうな子を切ることがあります。

藤平:そういう現実があるのですね。

山藤:本校でも、過去には成績の足りない子は受験できなかったのですが、それでも必ず一人か二人、落ちる子が出ます。しかも、不思議なことに落ちる子は必ずしも「成績がビリの子」ではないのです。あるとき一人の生徒がいて、何とかこの子を合格レベルまで出来ないかと全職員で考えました。最終的に、落ちても良いからと教員全体で腹をくくって受けさせました。その年に初めて全員が合格しました。

藤平:成績の良くない学生を留年させても不合格が出るのに、「受からなくても良いから」と腹をくくって、全員を何とかしようとしたら不合格が出なくなったということですか。

山藤:そうです。人を切ったから良い結果が出るのではなく、「全員で何とかしよう」と心を一つにすることで良い結果が出ることを学びました。それからというもの、全員卒業・全員合格を目標に掲げて来ました。だから、挨拶も礼儀も掃除も全員でやることにしたのです。

藤平:なるほど、ここで佐々木さんのお話と繋がりました。「なでしこジャパン」で佐々木さんが体現したことを、今度は山藤さんがご自身の学校でしているわけですね。
私も教育に携わる者として感じることが多くありました。本日は貴重なお話を有り難うございます。

『心身統一合氣道会 会報』(第17号/2016年10月発行)に掲載

「全員で何とかしよう」と心を一つにすることで良い結果が出ることを学びました。

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当会では「合気道」の表記について、漢字の「気」を「氣」と書いています。
これは“「氣」とは八方に無限に広がって出るものである”という考えにもとづいています。


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