特別対談

井上高志様にお話をお聞きしました。

藤平信一 心身統一合氣道会 会長

東京工業大学 生命理工学部 卒業
慶應義塾大学 非常勤講師・特選塾員
幼少から藤平光一(合氣道十段)より指導を受け、心身統一合氣道を身に付ける。心身統一合氣道の継承者として、国内外で心身統一合氣道を指導・普及している。

井上 高志様

株式会社LIFULL 代表取締役社長


井上高志様は登山家の小西浩文様のご縁で心身統一合氣道と出会いました。過密なスケジュールを調整しながら、道場に通っていらっしゃいます。

「利他」という考え

藤平信一会長(以下、藤平):2017年4月に社名変更と本社移転をされましたね。

井上高志様(以下、井上):新しい本社は、心身統一合氣道会の本部(半蔵門)に近く、徒歩で5~6分です。設立から20年経って、基幹事業の不動産情報サイト「LIFULL HOME’S」以外にも事業が広がり、社是の「利他主義」に基づいて“LIFE”を“FULL”にという意味で「LIFULL(ライフル)」と新しくしました。
 以前の社名の「NEXT(ネクスト)」は、「次世代を作る」「イノベーションをする」という意味で社名にしました。不動産業界は古い慣習が根強く、ユーザーに優しくない面がありました。そこを変えて次世代の業界を作る、という志でした。
 もう一つ、現実的な理由として、当社は2025年までに100カ国に展開すると掲げていて、現在57カ国になりました。“NEXT”は一般名称なので、国によっては商標の問題で使えない。「HOME’S(ホームズ)※現LIFULL HOME’S」というサービス名も同様で商標上使えません。
 昔、ものの本で読んだのですが、松下電器は元々「National」ブランドで圧倒的な知名度を持っていましたが、同じ理由で世界に出られなかった。そこで海外展開のために造語をつくって、最終的に「Panasonic」に統一したそうですね。

藤平:いま、「利他」という重要なキーワードが出ました。「どうしたら自社の売上を上げられるか」と我田引水に専心する経営者が多いなか、井上さんが「利他」という考えにたどり着いたきっかけは何でしょうか。

井上:自分の会社を興す前、新入社員時代にマンションデベロッパーで働いていた頃の話です。若いご夫婦が初めての家を買うお手伝いをしました。私が扱っていた物件を氣に入って「買いたい!」と言って下さったのに、ローンの審査が通りませんでした。あまりに落胆された姿を見て、私は自社に限らず他社の物件も含めてご紹介することにしました。最終的に他社の物件に決まりましたが、「初めての大きな買物で不安のなか、井上さんだけが親身になって相談に乗って頂いた。井上さんの会社から買えなくて残念でしたが、自分たちで探したら絶対に出会えないご縁を頂き、心から感謝しています」と、菓子折を持って御礼のご挨拶に来て下さったのです。まあ、その後に課長からはこってり叱られましたが、社会人一年目の純粋な22歳の自分としては、頭のてっぺんからつま先まで幸せな氣持ちで一杯になりました。
 その後、リクルート本社に出向となり、求人広告を売る法人営業の担当になったのですが、同じ様に「自分がこの会社の人事だったらどうするか」ばかりを考えていました。相手の立場に立って、自信を持ってお奨め出来るものだけを勧め、そうでないものは全く提案しませんでした。広告予算も総て自社で使うことなく、自社が7割くらい、他社が3割くらいの配分になっても、お客様にとって最大の効果が上がるセットを作っていました。元々、自然にそうしていたので、自分の中に利他の「種」はありました。

藤平:通常であれば予算は総て自社で使いたいところですね。お客様の立場に立って全体最適をはかったということでしょうか。

井上:正にそういうことです。「利他」という言葉に出会ったのは稲盛和夫氏の『Passion~成功への情熱~』という本の中で、「利他の心、これが大事」と読みました。最初は意味が分からず、「利他って何?」という状態でしたが(笑)。経営の神様と呼ばれ、一代で何兆円規模の企業グループを創った方が、「目先の売上、事業、利益より、最も大事なのが利他」と書いているので、26歳のヒナ鳥としては、親鳥によって刷り込まれたのです。「生き馬の目を抜く競争社会において甘いことを言ってはいけない」と、ステレオタイプの経営者イメージを持っていた私は大変な衝撃を受けました。

藤平:井上さんだからこそ「ビジネスにおいて利他が重要」という資格があるのですね。利益が上がっていなければ寝言と言われてしまいますね。
 私も20代の頃は、「自分が相手をどう投げるか」ばかり考えていました。だからこそ、技が一つも上手くいかないのですが、あるとき藤平光一宗主に呼ばれて「人を手助けするつもりでやりなさい」と指導を受けました。「今から投げる相手を助けるとはどういうことだろう」という状態です(笑)。今から投げる人をどう導くか「利他」で捉え、相手の立場に立つと、それまで出来なかった技が不思議なほど上手くいくようになりました。

井上:本当に面白いですね。

出すことによって新たなものが入ってくる

藤平:LIFULLには「LIFULL大学」という仕組みがあるそうですね。

井上:社内の学び舎になっていて、大学のカリキュラムと同じ様に50~60のゼミナールを用意しています。営業学部、技術学部、制作学部、デザイン学部など、職種をそのまま学部と呼んでいます。他にも一般教養もあって学びたいものを選択できます。基本的には社員が講師を務めるのですが、アンケート調査での満足度は5点満点中、平均で4.2~4.3。中には4.8とか5もあります。誰かに教えようと思うと自分の知識と経験を体系化しないと伝わりませんので、教える方がより学びが深くなることをみな理解しています。教える人にとっても学びとなるサイクルができています。

藤平:自分の特技や得意とするものを自分のものだけにしない。そうやって「利他」という素養が社員一人一人に備わっていくのですね。
 宗主は「氣は出せば入ってくる、自分だけに留めようとするから悪くなる」と説きました。また、「わしは秘伝は持たない」と言って、自分が会得したものを総て教えていました。出すことによって新たなものが入ってくるからです。私もそれを踏襲して、自分が得たものは総て出しています。そうすることで、常に新たなものが入って来ます。
 利他が重要という前提で、井上さんはどのように人材の評価をするのでしょうか。

井上:業務の評価項目に「利他貢献」という項目をつくっています。「他の人の為にこれから半年はこういうことをやりたい」と目標設定をし、上司と話し合い、よく達成出来たら◎を付けます。評価制度の中に何を盛り込むかは「こうあって欲しい」という会社からのメッセージです。売上や利益だけを求める会社だと、売上目標やノルマだけが並ぶのでしょうが、我々の場合は、ガイドラインとなる8個の行動規範を置いて大事にしています。360度評価で周りの総ての人間が見ています。良いところを見る評価にしていて、△・○・◎の三段階で×は付けません。「あの人は一点の曇りもなく行動している」という評価も皆でしています。評価にずっと△が付き続けても給与には直結しませんが、昇格には大きな影響を持っています。「彼は5年間ずっと△が付いているよね」となると昇格はまだ早いと判断するのです。

藤平:なるほど。本会の若手の指導員育成において大いに参考にさせて頂きます(笑)。

井上:お役に立てば何よりです(笑)。お陰様で、今年3月にリンクアンドモチベーション社主催の「ベストモチベーションカンパニーアワード」、平たく言えば「最も従業員のモチベーションが高い会社」として、283社中の第一位を頂きました。過去12年間取り組んでようやく今年日本一という称号を頂けました。そこで、今までの社内で取り組んで来たこと、その失敗例や成功例を、シートも含めてノウハウ全て放出して『日本一働きたい会社のつくりかた』という本を出版しました。自分たちだけのものとして留め置くことよりも、世の中全体に出す方が良いと考えたからです。世の中を良くする為には、自分の会社だけが良い会社であるのではなく、良いやり方が広まって世の中で働く人々が動機付けされて、キラキラ輝いて働く人が増えた方が良い。当社で1000万人雇用することは無理ですが、本として広がることで全体のボトムアップになればと考えたのです。

藤平:それこそ利他が土台の話ですね。井上さんと一緒に稽古している東京大学の西成活裕教授も利他を最も大事にしておられ、全体最適をはかることは個々の利益と直結していることを研究なさっています。「利他は究極の利己」であり、利他と利己は本来は一致しているのですね。

井上:興味があって「自利利他」という言葉を調べたことがあるのですが、本来、「自利」と「利他」は表裏一体で、「利他をさせて頂いたこと、そのものすなわち自利」なのだと知りました。幸福学とかポジティブ心理学とか読みあさってようやく分かったのが、貢献させて貰えるということ自体、もっと持続的に自分が幸せになるということなのです。「快楽」でも「充足」でもなく、「貢献」こそが最も幸せになれる行いなのですね。

藤平:幸福学を研究されている前野隆司先生が同じことを言われていますね。前野先生とは以前に前野先生の著書『無意識の整え方』で対談したことがあります。

井上:その前野先生に個人的に活動している財団法人の理事になって頂いたり、いま様々なことを一緒に進めています(笑)。

藤平:世間は本当に狭いものです(笑)。

物事の捉え方の土台が「利他」にある

藤平:最後に、心身統一合氣道の稽古をされていて、土台として経営に通じるものはありますか。

井上:様々なところで繋がっている実感があります。最も通じているのは「動じない」「ぶれない」ということで、経営者には必須だと思います。あとは「ぶつからない」こと。技を稽古すればするほど、ぶつからないことがすごく大事だと分かりました。競争せずに勝つことが出来たら最高の経営です。

藤平:井上さんを指導させて頂いて、私が心から驚くのは理解がとても早いことです。センスもあるのでしょうが、それ以上に、井上さんの物事の捉え方の土台が「利他」にあるからだと、いま分かりました。「心身統一合氣道の五原則」をもともと経営で実践なさっていたのですから。

井上:有り難うございます。勿論、先生の動きをよくみて、余すことなくコピーしようとしているのですが、一回でスッと上手くいくときと、いかないときがあります。上手くいかない時でも、ちょっとアドバイスを頂くとまるで違う、あの感覚は本当に面白く感じます。物事の本質は、技にも経営にも、そして万物にも通じるのですね。

藤平:移転した本社には素敵なレストランがあると聞きました。

井上:社外の方とも交わるためにLIFULL Tableというレストランを本社一階にオープンしました。氣を出すことで、外からの氣を取り入れて、氣の交流をはかっています。自社の社員だけでなく、近隣の皆様にも自由にご利用頂けます。本部の道場に来られる皆様にも稽古の前後にカフェやレストランとして是非お使い頂きたいです(笑)。

藤平:ああ、ここでも利他(笑)。本日は貴重なお時間を有り難うございます。

『心身統一合氣道会 会報』(第19号/2017年10月発行)に掲載

「貢献」こそが最も幸せになれる行いなのですね。

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当会では「合気道」の表記について、漢字の「気」を「氣」と書いています。
これは“「氣」とは八方に無限に広がって出るものである”という考えにもとづいています。


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