特別対談

登山家の小西浩文様にお話をお聞きしました。

藤平信一 心身統一合氣道会 会長

東京工業大学 生命理工学部 卒業
慶應義塾大学 非常勤講師・特選塾員
幼少から藤平光一(合氣道十段)より指導を受け、心身統一合氣道を身に付ける。心身統一合氣道の継承者として、国内外で心身統一合氣道を指導・普及している。

小西 浩文様 登山家

1962年 石川県金沢市生まれ。
15 歳で本格的な登山を始め、 1982 年に若干 20 歳で高山研究所隊のメンバーとしてパミール・コルジェネフスカヤ( 7105m )とコミュニズム( 7495m )の連続登頂を皮切りに、 14 座の一峰目、中国のシシャパンマ( 8027m )に無酸素で登頂。その他、ガッシャブルム無酸素登頂など、精力的に高所登山を実践し、世界の 8000m 級の山 14 座すべての無酸素登頂を目指す。


人生にも登山にも心が重要

藤平信一会長(以下、藤平):小西さんは2013年3月の昇段審査会で見事、初段に合格されました(※2013年当時。その後、2017年7月に弐段合格)。世界中の名だたる山々を無酸素で登るトップアスリートの小西さんが、何故、心身統一合氣道の稽古をしようと思われたのか。出会いとこれまでの経緯を教えて頂けますか。

小西浩文様(以下、小西):私は8,000メートルの山を無酸素で登るのですが、それには肉体が極めて強靱でないと通用しません。精神力が強い、根性があるというだけではなく、身体が動かないと駄目です。殺されても死なないぐらいの体力と生命力が必要です。国際線の飛行機が雲の上を飛んでいる高度まで酸素ボンベ無しで自分の足で登って行って降りてこないといけない訳ですし、山というのは舗装された道路を歩くのではなく、断崖絶壁あり、氷の壁あり、雪崩る斜面ありで、ありとあらゆる大自然の驚異が待ち構えています。そこを何とか8,000メートルの山の頂上に登らせて頂き、五体満足で元氣で家に帰ってこないと登山とは言えません。

藤平:相当に身体を鍛えられたのですね。

小西:10代から40歳くらいまでのトレーニングでは、心も身体も徹底的に鍛え上げ、限界突破するまで自分を追い込むことで不撓不屈の精神を養っていました。
 30年近く前に、当時お世話になっていた外科医で山登りの師匠からヨガを勧められました。ヨガの行者は標高6,000メートルに半裸で上がって、氷河の上で薄い毛布一枚きりで爆睡できたというのです。その秘訣は呼吸法で、下腹が一番重要だという話でした。そこで私も20代前半、インドの山奥でヨガの修行をある程度やりました。
 8,000メートル峰を無酸素でずっと登り続けてきて、2011年10月までに私とロープを結んだザイルパートナーが日本人・外国人合わせて58人も亡くなりました。そしてその他の沢山の登山家も凍傷で手足の指を無くす、鼻を落としたりしています。お蔭様で私は、山ではかすり傷一つすることなく、今日までまいりました。その一方、私は過酷なトレーニングをし過ぎたためか、20代後半から30代初めに三回癌になり、手術を繰り返しました。その間も山には行き続け、入退院の間に、8,000メートルの山を二座無酸素で登ることが出来ました。

藤平:その頃、「心の力」の重要性に氣がつかれたわけですね。

小西:そうです。40代前半頃から人生にも登山にも心が重要だとはっきりわかってきました。強靭な肉体がなければ8,000メートル峰は登れませんが、無事に帰ってこられないと何の意味も無い。そこで心というものがかなりのウエイトを占めるのではないか?と思ったのです。プロのスポーツマンならば、身体の資質も重要になりますが、そうでなければ、私は人生において最も重要なのは心だと確信しました。私の持論ですが先天性の病氣は除いて、後天性の病氣、事故、トラブル、アクシデント、人生建設の成功、失敗は心の所産が99%を占めていると考えています。どんなに身体が強くたって、心と身体は一つなのですから、心が駄目だと身体の能力を発揮することはできません。登山家としてだけでなく、人生を生きていく上で如何に心を磨いて行くかと考え、それで入門させて頂きました。

藤平:心身統一合氣道の根幹である「心が身体を動かす」ことが小西さんにとって重要だったのですね。それにしても、心身統一合氣道のエッセンスだけ上手く吸収したいというアスリートが多い中、小西さんは現在に至るまで実直に稽古を継続なさっています。その思いを教えて頂けますか。

小西:私の場合は、始めに藤平信一会長の指導を受け、それから本部の小堀智則師範に特別稽古をして頂くことになりました。当初は心身統一道のみを求めていましたが、小堀師範から「自分一人で出来ても相手がいて崩れたら何にもなりません。色々な相手に対しても動揺せず自由自在に振る舞えるかどうかが重要です」と言われ、確かにそうだと思いました。しかし、全然知らない人と稽古するのは抵抗がありましたので、まずは天心館道場(栃木)で開催された「ワールドキャンプ(※海外支部の指導者が集まる合宿)」に参加し、どんな人達が来ているのか確かめたいと思いました。人を見るには、外国の会員と接するのが分かりやすいと思ったのです。外国から来られている方と接して、皆様のお顔が本当に良かった。当時、私は白帯で参加したので「何だ、お前?」となるのではと心配していたら、非常に紳士淑女で優しい方ばかりでした。例えば、会長の稽古で、100人以上の参加者が会長の周りを囲んでいるとき、後ろの人の邪魔にならないように氣遣いをしていました。普通は自分のことばかりですから、これはなかなか出来ることではありません。学んでいる人たちに触れて、これは是非入門させて頂きたいと思いました。

藤平:人を注意深く見る習慣は山でのご経験からですか。

小西:山で鍛えて自分を作り上げてきたのですが、登山の世界は決して特別な社会ではないのです。一般社会の縮図です。一般的に登山家は、ロマンがあって、大らかで、髭を生やして、良いがたいで、豪快に「ガハハ」と笑っている連中というイメージをよく持たれますが、そうでもありません。怒りも、悲しみも、ひがみも、嫉妬も、憎しみも、ネガティブな感情が一杯渦巻いています。東京であればオブラートで包めるものが7,500メートル以上の死の地帯では、その人が隠していた本性が露骨に暴露する。戦場の様なものです。その中で色々な人と関わって、その人の顔、話し方、声音、声色、一挙手一投足、立ち居振る舞いなど全てに人格が出るのが分かったのです。

世の中の苦しんでいる人達の力に

藤平:小西さんの今後の抱負やご活動について教えて下さい。

小西:登山家は生涯やろうと思っています。私も今年51歳(2013年当時)になりました。自分の幸せ、やりたいことのみ追求して50年やってきました。10年位前から講演する機会を頂き、そこで氣がついたのですが、日本には苦しんでいる方、不安を持っている方がたくさんおられます。GDPが世界第3位の大国にも関わらず、自殺者も2011年まで十四年連続で三万人を超えていて、これは良い話では無いですよね。これだけお金がある国で何故これだけの自殺者がいるのか。ここに日本の抱えるジレンマがあります。今後の人生は、自分の幸せも追求し、自分も幸せでありながら、自分以外の人の幸せのお手伝いもしたい。世の中の苦しんでいる人達の力になりたい。人は生きているうちに少しは人の役に立たないと。そういう風に思っています。
 心身統一合氣道会には、心を磨き、氣を磨き、魂を磨く人材をどんどん輩出して欲しいと願います。私の見解ですが、武道は自分を守り、他者も守る為に発展した訳ですから、武道をある程度身につけた人が、自分、家族、組織を守るのは当然のこと、その上で国家を守り、国の為に活躍したいという人が現れるのが本来の姿でないでしょうか。心身統一合氣道会が、世界人類の平和と幸せの為に大きな志を持つ人たちを育てて、その人たちが世の中で活躍していく、となったら本当に嬉しいです。

藤平:最後に、大きな目標に向かって努力している皆様にひと言お願いします。

小西:本当に上に行きたいのであれば、何でも貪欲に取り入れる氣がないといけません。少しくらい稽古をかじっても意味が無いです。日々、根の稽古。氣の呼吸法も含めて、毎日必ず行い、心の貯金をしましょう。それがいつか自分のやりたいことの大変な力になります。

藤平:貴重なお話を有り難うございます。

『心身統一合氣道会 会報』(第4号/2013年7月発行)に掲載

人生において最も重要なのは心だと確信しました。

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当会では「合気道」の表記について、漢字の「気」を「氣」と書いています。
これは“「氣」とは八方に無限に広がって出るものである”という考えにもとづいています。


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