特別対談

美濃輪育久様にお話しをお聞きしました。

藤平信一 心身統一合氣道会 会長

東京工業大学 生命理工学部 卒業
慶應義塾大学 非常勤講師・特選塾員
幼少から藤平光一(合氣道十段)より指導を受け、心身統一合氣道を身に付ける。心身統一合氣道の継承者として、国内外で心身統一合氣道を指導・普及している。

美濃輪育久 様(ミノワマン)

総合格闘家


自分の良い状態を再現出来る

藤平信一会長(以下、藤平):美濃輪さんは〝超人ミノワマン〟として総合格闘技で活躍されています。とても有名な方ですから、格闘技での活躍については他の雑誌にお任せして、この会報誌では、心身統一合氣道との関わりを中心にお話を伺いたいと思います。
 さっそくですが、稽古を始めたきっかけを教えて頂けますか。

美濃輪育久様(以下、美濃輪):私は登山家の小西浩文さんと懇意にさせて頂いていて、小西さんの紹介で本部の小堀智則先生に出会い、呼吸動作を体験したのが始まりでした。小西さんから「どの様にでも押し倒して構わないから」と言われましたが、掴みどころが無くて全然押せなかった。物理的に押せないというよりも「押す場所が無い」という感じでした。声を出しても、声の勢いも伝わらないような不思議な感覚でした。その後、「折れない腕」と「持ち上がらない身体」も体験しました。普段は自分と同じ体重より重い人を投げているのに「あれ?」という感じで動かせませんでした。「折れない腕」を指導して頂き、とても興味を持ったのですが、そのときはタイミングが合わず稽古を始めるには至りませんでした。
 その後しばらくして、自分が肋(あばら)を痛めていたとき小堀先生と再会し、「こういう時こそ稽古すると良いです」と稽古にお誘い頂きました。本部の道場に見学に伺って、統一体のチェック、間合いの感覚など体験させて頂きました。「心が静まった時のベストな状態を常に再現出来るように」という説明があり、自分の過去の試合を振り返って、思うところがありました。調子が良くて勝つときの感覚と、統一体で心が静まっているときの感覚がすごく似ていたのです。この状態を常に再現するということは、自分の良い状態を再現できる。つまり常にベストパフォーマンスを発揮出来るということですから、すごいことだと思いました。これが、まさに自分が求めていたものだったのです。

藤平:実際のところ、多くのアスリートが統一体に関心を持ち、体験をすると「これはすごい!」と言います。しかし、身につくまで徹底して稽古する方は少ない。美濃輪さんが稽古を継続しているのは、その思いがあったからなのですね。

美濃輪:そうです。当初は週一回、特別稽古に通っていましたが、それだと二、三日は感覚が残っても次の週にはなくなってしまいます。少しずつ身についている感じはあるのですが、「得てはなくす」の繰り返しになってしまい、より深く、より早く身につけるために、圓心館道場(東京都)の稽古に参加するようになりました。技の稽古をしっかりすると、統一体がさらに深く理解でき、心を静める感覚や氣の導き方も分かって来ました。

藤平:格闘技では静中の統一だけでなく、動中の統一が不可欠ですね。そういえば、サッカーの加藤久さんも稽古を始めたばかりの頃、稽古でせっかく良い感覚を得られたのに、一晩寝て起きると、その感覚がきれいさっぱりなくなると仰っていました。だからこそ、加藤さんも徹底的に稽古されたのでしょう。
 稽古の機会を増やして、意識に変化はありましたか。

美濃輪:生活のすべてになりました。朝起きたら、まず統一体のチェック。歯ブラシを持つときも、茶碗と箸を持つときも、皿洗いの時も統一体を確認しています。氣が出ている感覚を常に保つようにしています。歯ブラシであれば毛先の動きがよく感じられるようになりましたし、皿洗いのときは皿の重さがよく感じられるようになりました。

藤平:藤平光一宗主は「一日に二、三時間、統一体の訓練をしても、他の二十数時間、不統一体では身につくはずがない。本当に身につけたいならば、365日、24時間が稽古である」と説いていました。美濃輪さんは、まさに「稽古」しているわけですね。
 試合では、具体的にどんな変化がありましたか。

美濃輪:まず、「構え」が変わりました。格闘技を15年近くやってきて、自分の中では完成した構えを持っていました。この構えから総ての動きが始まっていたのですが、心身統一合氣道の稽古を重ねるうち、今では構えがこんな感じになりました。
(比較写真2枚)

藤平:格闘技の常識には完全に反していますね(笑)。周りの人は驚きませんか。

美濃輪:みな驚いています(笑)。勿論、状況によって、手を少し高く上げたりはしますが、「構えあって構えなし」です。

藤平:その方が「氣の動き」を良く分かるからですね。

美濃輪:はい、そうです。以前は相手の身体の動きを見ていたので、相手のパンチやキックを見てかわしていました。今の構えになってからは、相手の氣の動きを感じ取りやすくなりました。以前の構えでいると、どうしても肩に力が入り意識が上がりやすかったので、無駄を省いて、省いて、省いたところ、この構えになってしまいました(笑)。ボクシングなどで作り上げたパンチの打ち方も、統一体の観点で見直して変わって来ました。
 日常生活でも、朝から晩まで全ての動きで無駄を省いていく作業を続けているのですが、これが楽しくてたまりません。

藤平:意味を理解していない方が、格闘技でいきなり美濃輪さんの真似したら大変なことになりそうですね(笑)。

力を抜くことで力を発揮できる

藤平:私が多くのアスリートを指導していて感じるのは、アスリートにとって「力を抜く」ということが、いかに難しいかということです。「力を入れた方が強い」という先入観が大きいと思いますが、美濃輪さんの場合はどうでしたか。

美濃輪: もちろん、自分にもありました。始めは「これは、さすがにまずいでしょ!?こんな至近距離で力を抜いたらやられてしまう!」と思いました。はじめは力を抜くことに恐怖心があったのですが、稽古を続けるうちに、「力を抜くことで力を発揮できる」ことが分かりました。同時に、相手のことが良く見える実感が得られました。例えば、関節技で相手の腕を取るときでも、力ではなく、リラックスして正しい方向に導くと楽に取れるのです。このやり方だと相手も抵抗出来ません。
 今となっては「こんなに無駄な力を使っていたのか」と思います。
 関節技でも単純にフィジカルなことしか考えていなかったのですが、「氣を尊ぶ」ことを知ってからは関節技の質が変わりました。力を抜いていると相手のことをよく感じ取れるので、今までよりも相手の変化に対応出来るようになりました。
 以前は、試合でうまくいかないことがあると「力が足りなかったから」と身体を鍛えていました。今では、「無駄な力が入っていたから」と姿勢や基本的な動作を見直しています。最大限に力を発揮するために、力を抜く方法や力を出すタイミングとリズムといったものを研究しています。
 試合に勝つ時も、以前は「100の力」で倒せるものを120、150、200でやっていたのですが、それは100で良いと知りました。90だと足りないのですが、100が本当の全力なのです。200だとその場は倒せても大きな無理がある。無理を続ければ、いつか必ず怪我となって表れる。最近になって「100の力」を感覚的に理解しました。

藤平:怪我や故障についてはいかがですが。

美濃輪:過去にはありましたが、今はすごく楽になりました。古傷にしても、リラックスして動くことで身体の負担が少なくなりましたし、試合後の回復も早くなりました。
 それだけでなく、実際に力も強くなりました。稽古を始めてから、ウェイトトレーニングが大きく変わりました。当時、膝も腰も痛めていた状態でも、130㎏前後の負荷でスクワットをしていました。それが、統一体でリラックスしてフワッと持ち、臍下の一点から動くことを試していくうちに、3ヶ月で190㎏の負荷でも負担なく出来るようになりました。

静動一致

藤平:美濃輪さんは大自然を相手にトレーニングをすることで有名ですね。最近では、当会の天心館道場(栃木県)で合宿されることもあります。その取り組みについて聞かせて頂けますか。

美濃輪:最終的には試合に繋がることを前提にして合宿をしているのですが、統一体をベースに、山に登ったり、木や竹を斬ったり、雪掻きをしたりしています。

藤平:美濃輪さんに手伝って頂いて栃木のスタッフが大変助かっているようです(笑)。単なる「作業」ではなく、一つ一つが統一体の「訓練」になっているわけですね。

美濃輪:はい。例えば、格闘技のコンビネーションで、動作の始まる前と終わった後に静止状態があると良いことを、雪掻きで氣付きました。雪掻きはひたすら同じ運動だと思っていたのですが、動作の前が静まっていると、その動作が活きてくる。「静動一致」は本で読んだことがあり、ずっと氣になっていた言葉でしたが初めて実感を得ました。山登りでも、一歩一歩に「ここにも静動一致が!」と発見がありました。

藤平:「動」の前には必ず「静」が必要です。無限の「静」があるからこそ、そこから無限の「動」が生まれ、そして無限の「静」に戻るのですね。しかし、それは道場だけで体得しようとしても、なかなか難しいものです。だからこそ、宗主も若い頃、ずいぶんと外作業で身体を動かし、そこから体得したものが大きかったそうです。私自身も内弟子時代、ずいぶんと外仕事をさせて頂きました。統一体だと楽に出来て、長時間動いても疲れない。一回一回の動作のばらつきもなくなりますね。

美濃輪:まさにその感じです。その感覚が格闘技にも繋がって、やるべきことは「静」を保つこと、そして「動」は一瞬で良いことに氣がつきました。考えてみれば、パンチやキックの前に無駄な力を入れて心をガサガサさせる必要はないのですね。

藤平:野球の広岡達朗さんがよく言われるのですが、多くの野球選手は野球だけやっていればよいと考えているそうです。野球の根底にある根本的な身体の使い方、ひいては心の使い方があることを理解すれば、どれほど上達するか分からない。それは合氣道でも同じことで、合氣道の稽古だけやっていれば良いと思う人が少なくありません。日常生活の一挙手一投足が重要ですが、美濃輪さんはどの様にしてその発想を得たのでしょうか。

美濃輪:「氣」のことは、心身統一合氣道に出会うまで分からなかったのですが、ありとあらゆるものに大事なヒントが隠されていると感じていました。自分の場合、例えばテレビや漫画で、強いボクサーが何かを体験してボクシングが強くなった、という話を参考にしていました。野球でバットの振る動作、投げる動作はパンチの腰の回転に繋がりますし、サッカーでボールを蹴る動作はキックに繋がります。山登りでは、大自然の中を歩くことで自然の氣を戴くこと、野生の勘を養うことなどが得られます。何をするにも、常に格闘技に繋がるヒントは無いかと探していました。今は「氣」の観点から総てを行っています。統一体だと、歩く・走る・バットを振る・ボールを蹴る・木を斬るなど、あらゆる動作が楽に出来るようになります。「氣」の観点で動くと、全身をバランス良く使えることが分かりましたので、格闘技でも、同じ感覚で動くようにしています。

藤平:最後に、美濃輪さんの今後の目標を聞かせて頂けますか。

美濃輪:心身統一合氣道でいま学んでいる「氣」を格闘技に活かして、常にベストな状態で試合を作り上げて行きたいです。自分はプロの格闘家ですから、ただ勝てば良いのではなく、世界中の人が観る舞台で、誰が見ても感動する試合、芸術的なパフォーマンスをしたいです。その結果として、チャンピオンを目指しています。

藤平:貴重なお話を有り難うございました。

美濃輪:心身統一合氣道の稽古から得たことは、まだ語り足りないくらいです。機会を頂ければ、いつでもお伝えしたいと思います。ご縁を頂いた小西さん、会長をはじめ、日ごろ指導して頂いている小堀先生に感謝しています。

藤平:今後もぜひ宜しくお願いいたします。心から応援しています。

『心身統一合氣道会 会報』(第9号/2014年11月発行)に掲載

今は「氣」の観点から総てを行っています。

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当会では「合気道」の表記について、漢字の「気」を「氣」と書いています。
これは“「氣」とは八方に無限に広がって出るものである”という考えにもとづいています。


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